子宮がんには「子宮頸がん」と「子宮体がん」の2つの種類があります
この2種類のがんは、同じ子宮にできる癌とは言え、原因や発症しやすい年齢・特徴などが全く異なります。
腟の一番奥にある子宮の入り口を「子宮頸部(しきゅうけいぶ)」といい、その部分にできるがんを「子宮頸(頚)がん」。
子宮頸部の奥にあり、妊娠した時に赤ちゃんが育つ場所を「子宮体部(しきゅうたいぶ)」と呼び、そこにできるがんを「子宮体がん」といいます。
一般的に「子宮がん検診」と言うと「子宮頸がん」の検診のことを指します。
子宮体がんに比べて子宮頸がんの方が頻度が高いためでしたが、生活習慣の欧米化にともない、近年は子宮体がんが非常に増えてきています。
子宮頚がんの予防と早期発見
子宮頸がんは、予防と早期発見が出来るがんです。
皆さんご存知ですか? 全世代を通して、女性のがん死亡原因の1位は乳がんですが、20代、30代の若い女性では1位は…なんと子宮頚がんなのです。 しかもこの年代の子宮頸がんは年々増えています。
子宮頸がんは、初期にはほとんど症状がなく、自覚症状が現れる頃には、がんが進行していることが少なくありません。
これから結婚や妊娠・出産を迎える年代で、子宮頚がんにかかる女性が増加傾向にあり、とても深刻な問題となっています。
子宮頸がん
子宮頚がんは年齢を問わず、子宮があれば全ての女性に起こる可能性があります。
子宮頸がんは発がん性のHPV(ヒトパピローマウィルス)の感染によって起こる病気です。
HPVは性行為によって感染し、性交経験のある女性の約80%が、一生のうちに一度は感染すると言われているほどありふれたウイルスです。ウイルスにかかっても、ウィルスは自然淘汰される場合がほとんどですが、高リスクのHPVウイルスががん化を引き起こし、子宮頸がんを発症します。
HPVは子宮頸がんの他に、外陰がん、咽頭がん、舌がんや肛門がん、男性の陰茎がんの原因ともなり、また発がん性でない低リスク型のHPVは、尖圭コンジローマの原因ともなります。
子宮頸がんは、検診によって初期の段階で発見されることが多いがんの一つで、また全身にできるがんで唯一、ワクチンにより予防が可能です。
また初期の段階で発見されれば、子宮頸部のがん組織だけを取り除く手術(円錐切除術など)によって、子宮を温存した治療が行えて、治療後も妊娠が可能性ですから、検診による早期発見がとても重要なのです。
しかし、日本人女性の子宮頸がん検診受診率は、諸外国と比べて著しく低く(→「妊婦健診での子宮頸がん発見」参照)、HPVワクチンの接種率の低さもあって、日本人の子宮頸がんがなかなか減らない理由の一つです。
子宮頸がんの予防と早期発見のために出来ることは…
- HPVワクチンを接種すること
- 子宮頸がん検診を毎年受けること
です。
子宮は、女性にしかない赤ちゃんを育てるための特別な臓器です。
当院では早く赤ちゃんが欲しい方へのお手伝いもしています。
子宮頸がん検診とは?
<子宮頚がん検診を受ける目安>
20歳以降の性交経験がある方であれば、何歳になっても最低1年に1回の検診をお受け下さい。これまでの検診で異常を指摘された方は、次の検診は何ヶ月後、と指導されていると思いますので、その指導にしたがって下さい。「もう大丈夫、検診は不要です」と言われても、今後一切検診が必要でなくなった、という意味ではなく、年に1回の検診は絶対に必要です。
検診の実際・・・
子宮がん検診は出血中には行うことが出来ませんが、それ以外であれば、妊娠中でも全く心配せずに受けられます。
また、他の診察目的で受診された時でも同時にがん検診は出来ますので、あらためて検診のために予約したり来院したりする必要は全くありません。
子宮頸がん検診は、内診台で腟の奥にある子宮頚部の細胞をブラシでこすり取ります。少し出血する可能性はありますが、痛みはほとんどありません。内診台での検査自体は数分で終わります。
検査後、数日は不正出血がみられることがありますが、少量であることがほとんどです。
現在は液状細胞診と言って、精度が高く、またHPV検査も同時に行えるものが主流となってきています。
高リスク(発がん性)HPV検査を同時にご希望の方は、お申し出ください(別途4,730円、税込)。
頸がん検査の結果が「ASC-US(細胞の異型あり)」の場合、高リスクHPV検査を保険の検査として追加します。平成31年4月からは、高リスクHPVの中でも最も頻度が高く悪性度も高い16型、18型の判定もできるようになりました。高リスクHPV検査が追加された場合、後日検査料を別途請求させて頂きます。
最近では国際的に標準となりつつある、HPV検査を検診として行い、陽性であれば細胞診へ、というように、HPV Firstの検査が行われる様になってきました。
子宮頸がん検診は会社などの健康診断に含まれている場合もありますし、各自治体の検診もあります。
いずれの検診もお受けになれない場合は、ご自身で任意検診を受けなければなりませんが、ほとんどの産婦人科では子宮頚がん検診を行っていますので、お近くの産婦人科医療機関に問い合わせて受診して下さい。
当院では診察に予約制を取っていますが、土曜日以外の平日であれば、予約がなくても受診、検診が可能です。
自己採取での検診もありますが、細胞が採り切れず、正確な判定ができないことがあるのでおすすめしません。きちんとドクターが行ってくれる検診などで行いましょう。
横浜市が行っている、横浜市子宮がん検診については、こちらをご覧下さい。
子宮頸がん予防ワクチンとは?
HPVに対するワクチンで、子宮頚がんを予防することができます。
これまで2価、4価といって、それぞれ2つ、4つのHPVを防ぐワクチンが接種されてきました。主に、16型・18型の2つの発がん性HPV感染を防ぎ、理論的に子宮頸がんを60%減らすことが出来ました。
4価ワクチンは、先に述べた尖圭コンジローマの原因となる低リスクのHPV、6、11型も一緒に予防できます。
令和3年2月、いよいよ日本でも、9価のワクチンを接種することが出来る様になりました。
4価に加えて、31、33、45,52,58型も予防でき、子宮頸がんの90%を減らすことが出来ます。
しかし残念ながら、発がん性の型は他にもたくさんあるため、ワクチンで全ての型の感染を防ぐことはできません。婦人科以外でHPVワクチンを接種する際に「子宮頸がんにはならない」と誤った理解をされている方も少なくありません。子宮頚がんの発症や前がん病変を見逃さないためにも、ワクチン接種後でも必ず定期的な子宮がん検診を行うことが必要です。
HPVワクチン対象者
9歳から45歳までの女性。
特に9歳から16歳くらいまでの、性交未経験の方への接種が勧められています。
令和2年12月より、ガーダシルは男性への接種も認められました。
子宮頸がん予防ワクチンの種類
サーバリックス | ガーダシル | シルガード9 | |
価・型 | 2価・16、18型 | 4価・16、18、6、11型 | 9価・16、18、31、33、45、52、58、6、11型 |
投与方法 | 6ヶ月の間に3回の筋肉注射 | ||
投与間隔 | 1ヶ月後と6ヶ月後 | 2ヶ月後と6ヶ月後 | |
期待できる効果 | 子宮頸がん 外陰がん 腟がん |
子宮頸がん |
|
対象 | 10歳以上の女性 | 9歳以上の男女 | 9歳以上の女性 |
接種費用 |
1回につき17,490円 3回分で51,370円 |
1回につき17,600円 3回分で51,700円 |
1回につき30,800円 3回分で91,300円 |
HPVワクチン接種費用
保険適用外です。3回分、とは、当院で3回受ける場合に限ります。
*現在横浜市では、市内にお住まいの中学1年生~高校1年生相当の女子は、サーバリックス・ガーダシル・シルガード9が無料で接種できます。
*令和7年3月まで、令和6年度に27歳になるまでの女性を対象に、キャッチアップ接種が行われています。
接種の注意点
この予防ワクチンは半年間に3回接種します。14歳までにシルガード9の接種を開始すると、2回で済みます。(目安は初回・1~2ヶ月後・初回から6ヶ月後です)
- ご希望の方はご予約をお取り下さい。
- 未成年の方は保護者と一緒に来院して下さい。
- 必ず問診と聴診をしてから接種します。気になることがあれば何でもお話しください。
- 接種は筋肉注射のため、注射による痛みを感じることがあります。
- HPVワクチンによる副作用が大きく取り上げられています。重篤な副作用を生じることは稀で、現在では副作用の対策を自治体などが行っていますので、ご心配な点はご質問ください。
- ワクチンの接種間隔を変更することも出来ますので、都合が悪いときには遠慮無くご相談下さい。
- コロナワクチンは他のワクチンと2週間の接種間隔を設けなければなりません。
その他の子宮頸がんの情報
・横浜市子宮がん検診について(どの自治体でも住民検診として子宮頸がん検診が行われています)
・HPVワクチン接種を「最短で終えたい」「2回目以降打ち損ねている」〜接種間隔のご質問〜
・平成12〜15年度に産まれた方たち(≒HPVワクチンを受けていない)の、子宮頸がん患者数、死亡者数の推計が発表されました。
・妊婦健診での子宮頸がん発見(日本は子宮頸がん検診受診率がとても低いです)
子宮体がん
これまでの日本人の婦人科領域のがんは、子宮頚がんが断トツで多かったのですが、近年では乳がんと子宮体がん、卵巣がんの発生が高くなっています。
子宮体がんが増えているのは生活スタイルの欧米化、特に食生活が原因ともされています。
2010年から子宮体がんが子宮頚がん(上皮内がんを除く)を上回ったとのことです(地域がん登録全国推計値 国立がん研究センターがん対策情報センター)。
子宮体がんは主に閉経前後の女性に多い病気でしたが、最近では30代、40代が増えてきています。
子宮頚がんは性行為で感染するHPV感染が原因ですから誰にでもリスクがあると言っても過言ではありません。しかし、子宮体がんはある程度リスク因子があります。 それは、卵巣から分泌される女性ホルモン=エストロゲンが原因です。 症状は、不正性器出血が多く、子宮体がんの90%の患者さんでみられます。
罹患する年齢は子宮頚がんより高く、30代の後半くらいから増えてきます。 糖尿病、高血圧、肥満の方に多く、未産婦(出産経験のない)の方も発症リスクとしてあげられます。 また、乳がんの術後治療に用いられる抗エストロゲン剤「タモキシフェン(ノルバデックス®)」の服用によっても子宮体がんのリスクが上昇します。 他に閉経後の更年期障害に用いられるホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲン製剤を投与するため子宮体がん、乳がんともにリスクを高めます。
その一方、若年性の子宮体がんにも注意を要します。多くは多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣(PCOS)で長期間無月経である場合に発症することがあります。
また、低用量ピルの服用は、子宮体がんのリスクを低下させることがわかっています(Gierisch JM et al. 2013)
他に、超音波検査で子宮内膜の肥厚所見のある方、子宮内膜ポリープのある方にも検査を勧めています。
子宮体がん検診とは?
子宮体がん検診を受けるの目安
・35歳以降で不正出血や過多月経がある方。
・超音波検査で子宮内膜ポリープなど、子宮内膜に異常がみられる方。
・乳がん患者さん、特にタモキシフェンを内服されている方。
・ホルモン補充療法を行っている方。
・35歳以下で3~6ヶ月ほど月経が来ない方。
・遺伝性がんのリスクがあると診断されている方。
これまでの検診で異常を指摘された方は、次の検診時期を指導されていると思いますので、その指導にしたがって検診を受けてください。
※子宮がん検診は出血中には行うことが出来ません。一般的には子宮体がん検査は生理の直後が望ましいですが、月経が来ない方はいつでも受診してください。
検診の実際・・・
子宮体がん検査は、子宮内に細い器具を挿入し、子宮内膜の細胞を採取します。細胞を採取する時にある程度の痛みはありますが、個人差はあるものの強い痛みは少ないです。ご心配な方はあらかじめ今まで飲んだことのある鎮痛剤を服用してから受診しても構いません。検査後数日は不正出血がみられることがありますが、少量であることがほとんどです。
また、まれにですが検査による子宮内の感染を起こすことがあります。卵巣チョコレート嚢胞のある方は感染のリスクが高くなるため、検査後に抗生物質を服用していただきます(自費1,100円、税込)。下腹部痛や発熱など気になる症状が続く場合は相談しましょう。
子宮体がん検診は、検診で行うリスク(子宮内感染など)が子宮頚がん検査より高いことから、全ての女性に行うという検査ではありません。しかし、一度でも子宮体がん検査で疑陽性が出ている方、乳がん患者さん、特にタモキシフェンを内服されている方は、最低でも1年に1度の検診がお勧めです。
また、子宮体がん検査は、少し精度が悪い検査で、11%くらいの見逃しがある場合があります。
検査結果に異常が無くても、症状や超音波検査所見によって、再検査を行ったり、また細胞診ではなく組織診を行うこともあります。
子宮体がん検査も自治体の検診でカバーされていることが少なくありません。 気になる症状がある方は子宮頸がん検診の際に相談してみましょう。
女性にとって最も大切なのは、かかりつけの産婦人科を持つことです。カラダについての 不安や悩みがあれば、放置せずに、産婦人科を受診し、相談してみましょう。