生殖補助医療のご案内
生殖補助医療とは
タイミング法や人工授精などの一般不妊治療に対し、体外受精を中心とした高度な生殖医療技術を用いた治療で、高度生殖医療、特定不妊治療などともよばれています。
生殖補助医療は主に、
・卵巣刺激(排卵誘発)
・採卵
・体外受精または顕微授精
・新鮮胚移植
・胚凍結(受精卵凍結)
・融解胚移植
の治療から成り立ちます。
生殖補助医療を行う方たちは、
- 卵管閉塞、卵管周囲癒着などの卵管性不妊(Pick Up障害)
- 原因不明不妊(タイミング法などの一般不妊治療を行っても妊娠に至らない)
- 男性側に不妊因子がある
- 卵巣年齢が高い(AMHが低い)
- 重度の排卵障害(多のう胞性卵巣など)
- 子宮筋腫の手術後の避妊期間、子宮内膜症の手術前
- 年齢による不妊
- 免疫性不妊
- 受精卵凍結保存(受精卵バンク)
などで、現段階で生殖補助医療以外に妊娠に至る方法がなく、本方法が最も適切であると考えられるカップルに適応されます。
令和4年4月の保険適用により、使用できる薬剤の種類や用量が定められました。
- 治療の流れ
-
当院で生殖補助医療を受ける方は生殖補助医療説明動画を視聴 していただいております。
説明動画で説明が足りない、理解しにくかった場合は「さくら相談室」 で説明を補足いたしますので、ご利用ください。生殖補助医療診療計画書にご署名し、生殖補助医療管理料をお支払いされている患者さんは無料でさくら相談室がご利用いただけます。
生殖補助医療は、主に以下の3つの周期に分けて治療が行われます。①プレトリートメント周期(ロング法の場合)
↓
②採卵周期
↓
卵巣刺激(排卵誘発)・採卵・新鮮胚移植または胚凍結
③融解胚移植周期
①プレトリートメント
採卵前検査
生殖補助医療を受けることが決まったら、採卵前検査をパートナーと一緒に受けていただきます。
女性だけに行う検査:血液一般・血液型・凝固、肝・腎機能検査、糖尿病検査、AMH
ご夫婦で行う検査:感染症(梅毒、B型肝炎、C型肝炎、HIV)
男性のみ:精液検査(当院で精液検査や人工授精を行っていない場合)
ロング法による卵巣刺激を行う場合には、採卵の前周期を「プレトリートメント」と呼んで治療を開始します。
プレトリートメントの途中から、GnRHアゴニストの点鼻薬(ブセレリンⓇ)を開始し、採卵が決定するまで、毎日継続してお使いいただきます。
*レトロゾール(フェマーラ)周期、PPOS周期、アンタゴニスト法では、プレトリートメントは行う必要がありません。
プレトリートメント周期は、
以下のいずれかの周期で行います。
・自然周期
・エストロゲン・プロゲスチン療法(2回のホルモン注射+内服薬)
自然周期
自然の排卵を待って、その1週間後から、GnRHアゴニスト(ブセレリン)の点鼻を開始します。
排卵日を確定するため、卵胞計測にいらしていただきます。
エストロゲン・プロゲスチン療法
月経周期が不順な場合には、注射剤と内服薬を用いて、排卵・月経が起こっているのと同じようなホルモン状態を作ります。
月経3〜10日目にプロギノンデポーⓇを注射し、その10日後にもプロギノンデポー注射と、プロベラ(MPA)の内服をします。この2回目の注射とともに、GnRHアゴニスト(ブセレリン)の点鼻を開始し、注射から約10日後に出血があります。
②卵巣刺激・採卵周期
D3診察
(月経開始3日目の卵巣。矢印で指しているのが胞状卵胞です。胞状卵胞の数はAFCと呼ばれます)
月経開始3日目ころ、超音波検査を行います。
超音波検査により、この周期が採卵に適していると判断された場合、ホルモン採血を行い、卵巣刺激(排卵誘発)を開始します。
採卵に適していない場合にはエストロゲン・プロゲスチン療法などを行い、再度、採卵周期のスケジュールを調整します。
卵巣刺激法
卵巣刺激法は、年齢やAMHの値から決定しています。
その方の通院スタイルや自己注射(ゴナールエフペンやレコベル)ができるか、など価値観に合わせた卵巣刺激法を開始します。
卵巣機能に応じた新しい治療法の選択
- ロング法
治療成績の高さから、最も多くの方が受けている卵巣刺激法です。
プレトリートメント後に始まる出血の3日目を目安に来院し、超音波検査を行います。
胞状卵胞を計測(AFC)し、卵巣刺激の効果を予測、また卵巣に異常がないことを確認した上でホルモン採血を行い、卵巣刺激が開始されます。
治療成績が優れているのは、自己注射製剤の「レコベル®」です。
レコベルはAMHと体重から求められた量を連日投与します。
他に、自己注射「ゴナールエフ皮下注ペン®︎」や通院で注射を行う方は、FSH(ゴナールエフ®︎)やhMGを150〜225単位から、連日投与します。
注射が開始されると、3〜5日ごとに超音波検査のために受診が必要です。
自己注射の使用法は、上記のリンク先をご覧ください。
- レトロゾール(フェマーラ)周期
ロング法やアンタゴニスト法のような毎日の注射や自己注射ができない場合に行われます。
プレトリートメントは不要です。
月経が開始したら、3日目を目安に来院し、超音波検査を行います。
胞状卵胞を計測(AFC)し、卵巣に異常がないことを確認した上で、ホルモン採血を行い、レトロゾールまたはフェマーラの内服を開始します。
最初は月経の12日目を目安に受診します。
-
- PPOS法
比較的新しい卵巣刺激法で、当院では多嚢胞性卵巣や上記の卵巣刺激で卵胞が発育しない場合に行なっています。PPOS法は、こちらでも詳しく説明しています。
プレトリートメントは不要です。
月経の3日目を目安に来院し、超音波検査を行います。
胞状卵胞を計測(AFC)し、卵巣刺激の効果を予測、また卵巣に異常がないことを確認した上でホルモン採血を行い、卵巣刺激が開始されます。
通院で注射を行う方は、
HMGを150単位、連日投与します。
自己注射を行う方は、
保険診療・自費診療ともに、FSH(ゴナールエフ皮下注ペン®︎を150単位またはレコベル)を連日投与します。
卵胞が発育してきたら、1日2回、黄体ホルモン(ヒスロン®︎)を服用します。
また注射が開始されると、3〜5日ごとに超音波検査のために受診が必要です。
-
- アンタゴニスト法
プレトリートメント後に始まる出血の3日目を目安に来院し、超音波検査を行います。
胞状卵胞を計測(AFC)し、卵巣刺激の効果を予測、また卵巣に異常がないことを確認した上でホルモン採血を行い、卵巣刺激が開始されます。
通院で注射を行う方は、
ゴナールエフを150単位、連日投与します。
自己注射を行う方は、
保険診療・自費診療ともに、FSH(ゴナールエフ皮下注ペン®︎を150単位またはレコベル)を連日投与します。
注射が開始されると、3〜5日ごとに超音波検査のために受診が必要です。
卵胞が16ミリくらいに達すると、排卵をしてしまう恐れがありますので、排卵抑制に「アンタゴニスト」を投与しなければなりません。
保険診療では、ガニレスト注射を、自費診療ではレルミナ錠の内服を行います。
採卵日の決定
注射剤を用いた場合は3〜5日毎に超音波検査を行い、フェマーラ/レトロゾールなどの内服薬では排卵のころ(月経周期10〜12日目)に受診していただきます。
卵胞が18㎜くらいに発育したら、ホルモン採血を行い卵胞の成熟を確認します。卵胞が成熟していると判断されたら、
・ロング法は、
注射剤(hCGまたは自己投与可能なオビドレル)で排卵のコントロール(トリガー)を行います。・ロング法以外は、
ブセレリン点鼻薬または注射剤(hCGまたはオビドレル)で排卵のコントロール(トリガー)を行います。→点鼻薬(ブセレリン)は、採卵の2日前、20、21時に左右の鼻に1回ずつ使用します。
採卵の前日、朝8、9時にも左右の鼻に1回ずつ使用します。→注射剤(hCG)は、
採卵の2日前、17〜18時に注射します。時間はあらかじめ相談して決めておきます。
hCGはオビドレル®︎という自己投与可能な製剤もあり、来院する手間が省けます。ご希望される方には指導いたします。
診察の結果から卵巣刺激の効果が発揮されない、卵胞の状態が良くないなどの判断で、また重度の卵巣過剰刺激症候群の発症が予測される場合は卵巣刺激・採卵の延期や中止を提案することもあります。他に採卵の2日前の夕食後から、鎮痛剤「ボルタレン®︎」「モービック®︎(自費診療)」を、排卵抑制のために服用します。
採卵・採精
採卵は、鎮痛剤と局所麻酔「メピバカイン®︎」を使用し、経腟超音波下に卵胞を直接穿刺して卵子を採取します。
当日は朝食後に、抗生物質ビブラマイシン®︎2錠と吐き気を抑えるプリンペラン®︎1錠を服用して下さい。
また採卵に来院する時間(8:45〜9:15の間で決まります)の30分前に、ボルタレン座薬®︎1錠を使用して下さい
採卵当日はご主人の精液を持参していただきます。来院時間の2時間前以降に採取して下さい。
ご主人の都合が付かない場合は、あらかじめ精子を凍結保存しておきます。採卵後の昼食の後にも、抗生物質ビブラマイシン®︎2錠と吐き気を抑えるプリンペラン®︎1錠を服用して下さい。
体外受精・顕微授精
採卵当日に行います。
・体外受精(IVF)
卵子と精子を同じ培養液の中に入れて受精をさせる方法です。
・顕微授精(ICSI)
とても細いガラス針で精子を1個、卵子に直接注入して授精させる方法です。初回の採卵などでは、卵子の数や精液の所見により、体外受精と顕微授精を半分ずつ行う(Split ICSI)こともあります。
受精の確認と胚培養・胚凍結
採卵・受精の翌日に、正常に受精しているかを確認します。
正常に受精していれば引き続き培養を行い、当院の基準に従って胚を凍結保存します。
胚凍結には、胚同士の感染防止のため、Rapid-iⓇを用いています。また胚凍結の後で、結果の説明と採卵後の診察に来院して頂きます。
新鮮胚移植
子宮内膜やホルモン値の条件が良い場合、胚を凍結せずに移植する、「新鮮胚移植」も提案します。採卵後から黄体ホルモン腟錠を使います。
③融解胚移植周期
産婦人科クリニックさくらでは、胚移植は原則として、単一胚移植を行っています。
2つ以上の胚を移植することは、多胎妊娠のリスクがあるためです。融解胚移植は、以下の2つの周期で行います。
- 自然周期
- レトロゾール(フェマーラ)周期
- ホルモン補充周期
胚移植日の決定
・自然周期・レトロゾール周期では、排卵日と子宮内膜の厚さから胚移植日が決まります。
分割期に凍結した受精卵は、排卵日から2〜3日後に融解して胚移植します。
胚盤胞で凍結した受精卵は、排卵日から5〜6日後に融解して胚移植します。
排卵日を多少調整することもできます。
排卵当日から黄体ホルモン腟錠を使います。・ホルモン補充周期では、子宮内膜の厚さと患者さんのご都合から胚移植日を決めます。
まず、ル・エストロジェル(エストロゲン製剤)で子宮内膜を徐々に厚くしていきます。適度な厚さ(10mmが目標です!)になったところで、胚移植の日程を決めます。胚移植日から逆算して黄体ホルモン腟錠を開始します。
基本的にホルモン補充周期では卵胞発育が抑えられますが、時々卵胞が出来て、排卵日を基準に胚移植の日程を決めなければならないことがあります。
ホルモン補充周期にお渡ししているスケジュール表は以下のものです。胚移植当日
着床しやすくするため移植する培養液には、エンブリオグルーⓇを用いています。
胚移植では基本的にアシステッドハッチング(透明帯に切れ目を入れる)を行います。胚移植は特に痛みもほとんどなく、麻酔などする必要もありません。
来院から胚移植、お会計まで30分ほどで終了します。
妊娠判定日
排卵日から2週間後に来院していただき、採血でHCG(妊娠性ホルモン)を測定して判定を行います。
妊娠判定陽性の方はこちらをご覧ください。オプショナル検査(Add-ons検査)
自費診療で行なっている方は、以下のオプショナル検査を受けることができます。
詳しくはそれぞれのリンク先をご覧ください。
- 生殖補助医療治療成績
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毎年更新している生殖補助医療の治療成績をアップデートしています。
採卵周期エントリー数
採卵の周期が開始したのをエントリー、として、188周期ありました。
しかし、途中で採卵をせずにキャンセルしたのが28周期、15%ありました。
その内訳で最も多かったのは、卵胞が発育しなかったり、発育したもののE2(エストラジオール)が上昇しない、つまり良い卵子が育たない「(卵胞)発育不全」で、次いで排卵させるホルモン、LHが予想より早く高くなってしまった「LHサージ」が続き、「その他」には、採卵が出来ない場所に卵巣が位置していたり、カップルが希望しているよりも少ない卵胞しか発育しなかったためキャンセルすることが多かったです。
最終的に160周期の採卵が行われました。
採卵と胚移植数
2021年の採卵と胚移植を行った患者さんと周期数です。
患者さんの平均年齢は36.7歳でした。
平均回収卵数は4.5±3.5個で、少ない方から多い方まで様々だということがわかります。
受精方法は、体外受精が50.%、顕微授精とSplit ICSIを合わせて43%と、半数は顕微授精を行いませんでした。
卵子採れず、とは、採卵しても卵子が取れなかったり、未熟卵、変性卵のみで、正常な成熟卵が得られなかったり、排卵してしまっている場合で、5.1%ありました。胚移植では妊娠反応が見られた、いわゆる妊娠率は56.1%でした。過半数で妊娠反応が見られる、ということです。
「臨床妊娠率」とは、赤ちゃんが入っている袋(胎嚢)が見られることで31.0%、妊娠率との差は妊娠反応が出ただけで流産になってしまう、いわゆる「化学流産」です。
赤ちゃんの心拍が見られたのは26.2%で臨床妊娠率との差、4.8%は枯死卵という流産です。最終的に出産率は25.1%で、心拍確認後に1.1%が稽留流産となってしまいました。
特記したいのは、出産率で、1/4の出産率であることは、他の不妊治療と比べると抜きん出ているのがわかります。
採卵時年齢分布
採卵の際の患者さんの年齢分布です。30代前半の方が増え続け約半数に達しました。30代後半の方も増えていますが、41歳以降、残りが30歳までの20歳代の方達で、例年とほとんど変わりはありません。
それではそれぞれの年代で、どれくらいの妊娠が望めるのでしょうか。
年代別妊娠率
胚移植あたりの年代別妊娠率です。
色がついているのが妊娠したことを表し、灰色が妊娠しなかった胚移植の周期です。
色分けは、赤が化学流産、緑が枯死卵、紫が稽留流産、そして青が出産されたことを表します。一般的に妊娠率はこの色がついた部分を指し、臨床妊娠率は胎嚢以降、つまり緑、紫、青を指します。
当院のデータでは、原則としてこの色分けをしています。
注目して頂きたいのは、青色の「出産率」で、20代と30代後半、40代で前年を上回りました。
続いて2008〜2021年、14年間のデータです。
これも青色の出産率を見ると、20代では38%、30代前半では27%、30代後半では24%、41歳以降でも5.9%となり、14年間の出産率は、36歳以降で過去最高となりました。
さて、胚移植には、
- 新鮮胚移植
- 融解胚移植
の方法があります。
多くの患者さんで、受精卵を一度凍結保存し、次の周期以降に融解胚移植を行うことが多く、Freeze Allといって現在国内の多くの施設では新鮮胚移植が行われなくなっています。
当院でも多くの胚移植が融解胚移植で行っていますが、新鮮胚移植の条件に合わないことが多いためです。
一方で適応条件さえ整えば、新鮮胚移植でも次に示すように、良好な出産率が得られます。
新鮮/融解胚移植成績
子宮内膜の厚さや卵巣の腫大、採血したエストラジオール(E2)値によって新鮮胚移植の施行条件を定めていますが、これらの条件をクリアすると、出産率は、新鮮胚移植の方が高いです。
グループ別の内訳を見ると、Aグループは卵巣機能が良いため、ロング法のように強い卵巣刺激では、ほとんどの周期でE2が高くなり、新鮮胚移植が行えませんでした。またDグループはかつて低い傾向でしたが、他のグループと同様に新鮮胚移植の方が良好になっています。
Cグループ、PCOグループでは融解胚移植の方が良好ですが、原因は不明です。
新鮮胚移植は凍結して後で胚移植をする手間やコストが省けるため、妊娠には近道でコストを抑えられる方法、と言えます。
融解胚移植の周期には3つの方法があります。・自然周期
・レトロゾール(フェマーラ)周期
・ホルモン補充周期
です。
それぞれの出産率をみてみましょう。
融解胚移植周期別妊娠率
多くの方では自然周期とホルモン補充周期に融解胚移植が行われており、一方で排卵しにくかったり、子宮内膜が厚くならなかったりした場合に用いられるため周期数は多くないものの、レトロゾール(フェマーラ)が最も出産率の高い方法でした。
一方で、ホルモン補充周期は、胚移植日を任意に設定できることが多く、仕事をしながら治療を続けている方にとっても選択しやすい方法と言えます。
次は、受精卵のグレードと妊娠・出産率の関係について紹介します。
グレード別妊娠率/胚移植あたり
受精卵はその見た目で評価され、グレードが付けられます。
胚盤胞の場合、赤ちゃんになる部分と胎盤になる部分の細胞数をそれぞれをA〜Cに分類し、赤ちゃんになる部分、胎盤になる部分の順でAA、BB、CBのように表現します。Aは細胞数が多く、Cはほとんど細胞がない、と言う意味で、グラフの左ほど良い受精卵であるとされています。
色のついた妊娠率、特に青の出産率は、おおむね左から右にしたがって、少なくなるのがおわかりになるかと思います。
最高評価のAAから、BAやCAは胚移植あたり50%以上の出産率でした。
一般的にはBBまでが良好胚で、CBより右は不良胚とされますが、CBで29%、BCでも25%、つまり3〜4回の胚移植で一人の赤ちゃんが産まれているため、決して悪い胚とは言い切れません。
CCは出産することがないため、当院では凍結、胚移植の対象外としています。良い受精卵を得ることが妊娠・出産率を高める、と言うことがお分かりになると思います。
次は胚移植回数別の妊娠率、つまり、何回目の胚移植で出産をしているか、を紹介します。
これはある意味、皆さんの治療回数の目安になると言えるかもしれません。
胚移植回数別妊娠数
2017年から2021年までの5年間に行った胚移植で、何回目の治療で出産に至ったか、を表しているものです。
横軸はそれぞれ胚移植回数、縦は出産に至った周期を、累積して表しています。この間に265名の赤ちゃんが授かりました。初回の胚移植で、実に57%が出産しています。これは、この治療法がカップルにとって最適であれば、早いうちに妊娠が成立する、ということを表しています。 その数は2回目、3回目と増え、3回目までに87%、6回目では98%と、ほとんどが出産に至っています。
では、3回、あるいは6回目で妊娠しなければ、妊娠を諦めるのか。
胚移植では13回目に出産をされた方もいらっしゃることから、7回以上の胚移植は意味がない、とは言い切れません。
何回まで治療を受けるか、カップルの価値観を重視しています。
次は、2017年から公表しているデータでBMI別の妊娠率です。
BMI別妊娠率
BMI(Body Mass Index)は体重・体格指数の一つで、身長と体重から簡単に求めることができて、様々な科学的根拠が示されているものです。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
で計算できます。例えば身長155cm、体重50kgであれば、50(kg)÷1.55(m)÷1.55(m)=20.8と求めることが出来ます。
BMIに科学的根拠が示されているのは、BMI 22が、最も疾病率(病気をする確率)が低く、最も平均寿命が長いため「標準体重」とされています。
また、海外のデータでも、21.5が最も排卵障害が少ないことが示されています(Rich-Edwards JW et al. 2002)。これらを根拠に、日本肥満学会はBMIを
- 18.5未満:低体重
- 18.5〜25:普通体重
- 25以上:肥満
と定めています。
上のグラフから、BMIは右の体重の比率が高いほど出産率が高いように見えますが、統計学的には、BMIが18.5未満の低体重の方たちは、18.5以上の普通体重、25以上の肥満に比べて出産率が有意に低い、といえます。
しかし、16.5以下、29.5以上では出産した方はほとんどありませんでした(日本産科婦人科学会で発表、2018)。BMIが低いと栄養状態が悪く、BMIが高いと出産率が高まりますが、高度の肥満では悪影響を及ぼす、と考えています。
さらにサブ解析をすると、その傾向は年齢とともに大きな影響を及ぼしますので、当然ではありますが、年齢が高くなるほど、普通の体型を維持しなければなりません。
ここまで見てきたように、産婦人科クリニックさくらでは、生殖補助医療の治療成績を毎年振り返り、より妊娠率の高い方法を皆さんにお勧めしています。
2020年に定めた「治療戦略」を紹介します。
まず、年齢とAMH値によって卵巣機能を5つのグループに分け、それぞれの治療方針を立てています。
- Aグループ;40歳以下でAMHが3.0以上
- Bグループ;40歳以下でAMHが1.0~3.0
- Cグループ;40歳以下でAMHが1.0未満
- Dグループ;41歳以上
- 多嚢胞性卵巣(PCOS)またはそれに準ずる方で、AMHが5.0以上が目安です。
このAMH値ですが、3.0=33歳相当、1.0=43歳相当です。
これらのグループ別に、治療前に行う準備、卵巣刺激法、受精卵の培養期間を定めています。表を再度掲げます。
治療前の準備(採卵までの治療)
Aグループの方は卵巣機能が良く、妊娠率もとても高いため、治療前の準備を特に行う必要がありません。胚移植の前の周期から、葉酸の摂取を開始してください。
Bグループの方たちには特に、マルチビタミンミネラルのサプリメントを服用して頂くことをお勧めします。多嚢胞性卵巣(PCO)の方は、AMHが高いもののビタミンD不足であることが多いため、血中のビタミンD濃度測定と、低値である場合、ビタミンDが含まれたVD、またはMVMのサプリメントを勧めます。
*令和4年4月の生殖補助医療の保険適用に伴い、混合診療の禁止から、保険適用で治療を行う場合、DHEAとメラトニンの処方ができなくなりました。
卵巣刺激法
採卵までに卵胞を育てる方法です。
A、B、C、Dグループでは、Long法が最も妊娠率が高いです。
ロング法は毎日注射通院が必要ですが、自己投与の注射が可能な方には別途ご指導させて頂きます。Aグループでは、内服で行うレトロゾール法もロング法と同等の治療成績なので、注射通院、自己注射ができない方、あと一人のお子さんを希望されている場合にお勧めしています。
培養期間
採卵後の体外培養期間です。
A、B、Cグループ、多嚢胞性卵巣では採卵後5または6日目まで胚盤胞まで育て、Dグループは分割期である2〜3日目まで体外培養します。
卵巣機能が低下すると長期間の体外での培養に受精卵が耐えられないことが多いため、Cグループの方も、良好胚が得られない場合は培養期間を短縮します。
新鮮胚移植/凍結融解胚移植
採卵した周期に体外培養を経て胚移植するか、胚凍結して次の周期以降に融解胚移植を行うか、です。
以下の条件であれば新鮮胚移植が可能です。
すなわち、- 子宮内膜が10ミリ以上に達している
- 採卵前のE2(エストラジオール)値が1000以下
- 両側の卵巣腫大がない、か軽度である
これらの方法はあくまでもこれまでの妊娠率の高い方法から決定しました。
治療を受けるカップルのご都合や価値観を共有し、より良い治療法の選択を一緒に考えていきたいと思います。