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子宮内膜症

子宮内膜症

産婦人科クリニックさくら 不妊の原因

「子宮内膜症」とは。

子宮内膜症とは

子宮内膜症は主に2つの症状により、女性のQOLを低下させます。
それは「痛み」と「不妊」です。

痛みには「月経痛(生理痛)」「その他の骨盤痛(慢性骨盤痛、性交痛、排便痛)」があり、「不妊症」とあわせて3大症状とされます。

子宮内膜症と一言で言えないくらい、病気の程度は様々で、病態も多岐にわたり、更に治療法も多くの種類があります。

子宮内膜

「子宮内膜」とは赤ちゃんが宿る(受精卵が着床する)組織であり、月経の際に剥がれて出血とともに腟から出て来る、子宮の内側にある組織です。
この組織が本来の子宮内ではない場所に出来るのが子宮内膜症です。

よく子宮内膜の病気、とか、子宮内膜増殖症(子宮体がんの前がん病変)と混同しがちです。

原因が特定できていませんが、一卵性の双子の姉妹が内膜症にかかることがあるため、遺伝的な要因はあるとされています。

月経の際に子宮内膜が剥がれて卵管を通して腹腔内や子宮筋層に拡がる「移植説」や卵巣にできる内膜症、チョコレートのう胞のように、卵巣の組織の一部が変化して内膜症ができる「化生説」などがあります。その他に免疫的な因子や、20年前にはダイオキシンなど環境ホルモンの影響があるのではないか、とだいぶ騒がれました。

子宮内膜症は月経がある間の病気です。進行の速さや、再発の有無など、個人差がありますし、同じ患者さんでも内膜症が進んだり止まったり、また進んだり、と生理がある期間でも一概に言えません。

月経がある期間、月経のたびに悪くなりますので、初潮前に発生したり、閉経後にも発生したり悪くなったりすることはありません。妊娠中も月経がありませんから、妊娠したり、閉経後はだんだんとよくなっていきます。

ですから「子宮内膜症」というと「妊娠すればよくなります」「早く赤ちゃんを作ってください」と短絡的に指導されることを聞きます。

妊娠しなさい、と言われても結婚しているかどうか、赤ちゃんを望んでるか、人それぞれ立場が全然違いますよね。
内膜症と診断されている方で、これは治療の前、後にかかわらずですが、来年妊娠しようか、今年作ろうか、と考えている方なら、少しでも早い今年にしたほうがいいと話しています。

つまりもう妊娠できる条件が整っている方は、内膜症の治療効果もあるため、 また反対に内膜症が悪くなると妊娠しにくくなるため、少しでも早い妊娠をお勧めします。我々は患者さんの人生設計、家族計画の中で無理のない内膜症治療を勧めています。勿論早く赤ちゃんが欲しい方にはお手伝いをしています。早いうちに不妊スクリーニング検査タイミング指導を開始しても良いと思います。

反対にまだ妊娠の予定のない方は、内膜症の進行を防ぎ、出来るだけ治る方向へ、また妊娠・出産を終えた方は、悪性化を予防する目的に、その方の病気の状態や治療に対する価値観に基づいた治療方法を提案します。

☆病態・診断

子宮内膜症は増えているのか?

よく内膜症の特集などで、「子宮内膜症は増えている」と言うフレーズを目にします。実際にどれくらい前と比較しているのか明らかではなく、現在の患者さんたちのお祖母さんたちの時代と比較したらどうか、もっと近年のお母様方の時代では、と考えますが、内膜症という病気の概念がなかった、もしくは乏しかったため、当時の内膜症の発生率が分からないため比較ができません。

「妊娠すると内膜症がよくなる」 妊娠で内膜症が治ったり、進行が止まったり、ほとんどの患者さんでみられます。
「産むと生理痛が軽くなる」とは言われてきたことで、これを考えると、昔からきっと内膜症はあったのでしょう。

現代女性は上の世代の方々と比べると食生活の欧米化などで明らかに栄養状態がよく、初経年齢が早まっています。また進学や就職があるため、結婚年齢が上昇し、初産年齢は30歳を超えました。妊娠回数は少なく、出産は多くて3回くらいでしょう。さらに平均的な日本人の閉経年齢は52歳だそうです。これに対し、上の世代の方々は個人差があるものの、初経が遅く、まもなく結婚し、妊娠、出産をしました。出産の後、すぐにまた妊娠、と出産回数が多く、また閉経が早かったです。
こう考えてくると、現代女性と上の世代の女性では、最も異なるのが生涯の月経の回数です。「内膜症は生理のたびに悪くなる」が真であれば、現代女性のほうが内膜症にかかりやすい人生を送っている、といっても過言ではありません。

現代女性に内膜症が増えている最も大きな要因は、上に挙げた、月経回数が増えたことによる、と思われます。

子宮内膜症の病態 ~「炎症」と「癒着」~

子宮内膜症により引き起こされる病態は、主に「炎症」と「癒着」がキーワードです。

内膜症の病変は、細菌の感染を起こしているわけでもなく、「炎症」という組織の変化がもたらされているのとは厳密には異なりますが、あたかも慢性炎症のごとく、病変の進行と沈静化が繰り返されています。

「炎症」の起こった組織はやがて「癒着」を形成します。

「炎症」「癒着」ともに、疼痛の原因となります。

子宮や卵巣の周囲で一番痛みに対して敏感な組織は腹膜です。
内膜症の「炎症」的変化によっても、形成された「癒着」によっても、腹膜は痛みを感じます。

卵巣にチョコレートのう胞が発生している場合、ほとんどの方に卵巣周囲の癒着、特に骨盤の壁にあたる腹膜への癒着が見られます。さらに卵巣と卵管の間や子宮の後壁、直腸など腸管との間にも癒着を形成します。とくに腹膜、子宮後壁、腸管との癒着は痛みが強いです。

「癒着」はこのように痛みを生じるほか、その臓器の機能を損ねます。
例えば卵管が癒着していると、不妊の原因となります。卵管は卵子を取り込み、精子を通し、受精卵を作る場であり、さらに受精卵を子宮に送る役割を担う、妊娠成立のためにとても大切な臓器だからです。

このように前に述べた「子宮内膜症の女性のQOLを低下させる2つの症状」すなわち「疼痛」と「不妊」は、「炎症」と「癒着」によって引き起こされている、といえます。

卵巣チョコレートのう胞

卵巣に内膜症病変が発生し、卵巣の中に血液がたまる病態があります。古くなった血液が、あたかもチョコレートを融かしたように見えるので、「卵巣チョコレートのう(嚢)胞」と呼ばれます。病気の名前にお菓子の名前が付くなんて珍しいですが、国際的にも「Chocolate cyst」でも通じます。

チョコレートのう胞は、その中に血液がたまるため、卵巣が腫大します。しかし、他の卵巣のう腫に比べて、茎捻転は起こしにくいです。茎捻転とは、卵巣のう腫がある程度大きくなると、一般的には5cmくらいからですが、卵巣の付け根の部分を「茎」とし、のう腫が回転(捻転)することで、この「茎」には卵巣を栄養する血管がありますから、卵巣に血液がいかなくなり、悪い言葉で言えば、卵巣が腐ってしまいます(壊死)。このときに非常に強い痛みを突然起こすことがあり、これを卵巣のう腫茎捻転といいます。
チョコレートのう胞は内膜症ですから、前に書いた「癒着」を多かれ少なかれ伴うことが多いです。チョコレートのう胞は、周りの卵管、子宮、骨盤壁、腸管に癒着していることが多いので、茎捻転はほとんど起こしません。

しかし、チョコレートのう胞が出来ることによる圧迫された痛み、周囲の癒着による痛み、茎捻転ではなく破裂する可能性、チョコレートのう胞があると排卵される卵子の質が低下する可能性、わずかながらもチョコレートのう胞のがん化も言われており、チョコレートのう胞は治療の対象となることが多いです。

治療の適応は、症状と大きさによります。
痛みがある場合、まずは鎮痛剤も使いますが、鎮痛剤が効かなければ、内膜症に対する治療の適応です。不妊症の場合、卵巣チョコレートのう胞 また大きさはおおむね5cmくらいを超えた場合に治療の適応となります。

治療には、「4つの薬物療法」で書きましたが、

  1. 手術
  2. 偽閉経療法
  3. ジエノゲスト
  4. 低用量ピル

などがあります。上から根治的な治療法の順ですが、同様に身体に対するストレスも大きい順になっています。

1.の手術療法ですが、最近ではほとんどが腹腔鏡下に行われています。大きすぎるもの、癒着がひどいもの、悪性の可能性がある場合には開腹手術が行われています。

チョコレートのう胞のがん化ですが、年齢や大きさでがん化のリスクが異なります。

チョコレート嚢胞の0.7%(143人に一人)が癌化する、と言われ、50歳以上で増えます(Kobayashi H et al. 2007)が、45歳くらいからみられるよになります。

子宮内膜症の診断
  • 内診
  • 超音波検査

子宮内膜症の診断に、最も広く有用な検査法です。

超音波は基本的には情報量の多さから、経腟超音波が一般的には行われます。性交経験のない方は経腟では痛みがあるため、直腸から診ます。この方法はお腹から診る経腹超音波に比べ、圧倒的に正確です。

超音波検査で診断しやすいのが「卵巣チョコレートのう胞」と「子宮腺筋症」です。他に子宮の後ろ、直腸との間に形成されるダグラス窩閉鎖も診断できることが多いです。

卵巣チョコレートのう胞の診断で、超音波で診断しにくいことがあるのが皮様のう腫です。これらを鑑別して診断するには、MRIも有用です。
子宮腺筋症も子宮筋腫と診断に迷うこともあり、これらはほとんど典型的な形をとることが多いですが、やはり鑑別しにくいときはMRIを行います。

超音波検査は診断のみならず、診断後のフォローアップや治療後の経過観察に最も簡便に行われる方法です。超音波で診断しきれない場合は、やはりMRIが必要です。

MRI

子宮や卵巣、婦人科疾患の診断に有用なのが、MRIです。超音波検査が外来でいつでもできる診断法であるのに対して、MRIは精密検査的な意味合いを持ちます。

内膜症に限らず、超音波での診断が正しいのか、悪性の所見はないか、他に病変がないか、子宮筋腫や卵巣のう腫の位置はどこか、という視点で、MRIで撮られた画像を読影します。

MRIは磁気を使って行う検査で、CTに似ていますが、その診断性能は、婦人科領域ではCTをはるかにしのぐことが多いです。強力な磁場を発生させるため、体内にペースメーカーや磁石に反応するコイルを埋め込んでいる方は行えません。

当院では近くの「いとう横浜クリニック」にお願いしてMRIを撮っていただいています。

チョコレートのう胞は卵巣内に血液が貯留したのう胞ですが、超音波では内容物が脂肪成分である皮様のう腫と見分けがつかないことがあります。MRIではこのような内容物の違いを表すのが優れています。
また子宮腺筋症の中でも子宮筋腫のように腫瘤状の病変を作っている場合があり、このときにもMRIが鑑別に有用です。

重症子宮内膜症では子宮の後ろ、直腸との間に形成されるダグラス窩閉鎖がしばしばみられ、生理痛、排便痛、性交痛の原因となり、QOLを低下させる重要な病変ですが、内診、超音波で診断ができないことがあります。MRIでは直腸が子宮後面に引きつるような形に描出され、患者さんが見ても非常に分かりやすい画像が得られます。

腫瘍マーカー、CA125

子宮内膜症の活動性を表す腫瘍マーカーに、CA125があります。

腫瘍マーカーとは、もともと悪性腫瘍、がん細胞が特殊なたんぱく質を作ることに着目し、それを測定することでがんが身体にないか、とか、がん治療後の再発の目安に用いられてきました。

子宮内膜症は悪性腫瘍ではありませんが、CA125が上昇することが知られており、その活動性や治療効果の判定に用いられます。

CA125は「子宮内膜」由来のマーカーでもあり、子宮内膜のがんである「子宮体がん」や「卵巣がん」など様々な癌でも高い値が示されることが多いです。

よく子宮内膜症の診断の目的にCA125を測定することがありますが、CA125は上に書いたように子宮内膜症の「活動性」を表すもので、CA125が正常値であれば子宮内膜症ではない、とはいえません。また、月経期には異常高値を示すことが知られています。これも上に書いたように子宮内膜由来のマーカーであるため、月経期には高くなる、と考えられています。

偽閉経療法を行い、内膜症の活動性が抑えられ、治療効果が出てくるとCA125値が低下します。
また手術で内膜症病変を摘出した場合も同様です。
反対に再発した場合でも高くなってくるため、治療後の効果判定に用いられます。

さらに卵巣がんやチョコレートのう胞のがん化の場合、非常に高い値を示す傾向があり、悪性の診断にも用いられます。

似たような腫瘍マーカーに、CA19-9、があります。
もともとは膵炎やすい臓がんの腫瘍マーカーですが、婦人科領域では一番有名なのが「皮様のう腫」。続いて子宮内膜症、卵巣がんです。

子宮内膜症では、CA125が最も関連性が高く、つまり病気の活動性を表しますが、患者さんによっては、CA125、CA19-9の両方、或いは一方のみが高くなることがあります。