現在国内で処方可能な低用量ピルは、16種類あります。
当院では以下の低用量ピルを処方していますが、ピルを必要とする症状や目的に応じて、その特徴を活かした処方を行なっています。
それぞれの特徴はあくまでも一般的なもので、実際に服用してみると異なる場合もあります。その場合は次に適すると考えるピルに変更したり、低用量ピル以外の治療を提示することもあります。
低用量ピルは、処方する医師の経験や考えも異なるので、ここではガイドラインなどを参考としながら、一例として説明します。
この記事の目次
OCとLEPはどのように違うのですか?
低用量ピルは、自費処方するOCと、保険処方するLEPに分けられます。ちなみにOCは「オーシー」と、LEPは「レップ」と我々は呼んでいます。
LEPはいずれも「月経困難症」がある場合に保険適応となり、ヤーズフレックスのみ、子宮内膜症に伴う疼痛も適応となります。
OCは、もともとは避妊目的の処方ですが、副効用として改善が期待されるPMSや月経不順などでも処方されています。
第1世代、第2世代、、第4世代はどのように違うピルですか?
低用量ピルは、エストロゲンであるEE(エチニルエストラジオール)と、プロゲスチン(黄体ホルモン)が含まれた合剤です。
現在治験が行われている新しい製剤を除いて、処方が可能な低用量ピルは全て、エストロゲンにはEEが共通して配合されていますが、低用量ピルを特徴付ける一つがプロゲスチンで、その開発の経緯から、第1世代から第4世代と分類されます。つまり、世代、は、プロゲスチンによって分けられているのです。
このプロゲスチンの開発は、いかに副作用を少なくし、また男性ホルモン作用を弱くするか、という点が主です。
エストロゲンと黄体ホルモンは、例えば妊娠にとっては協調して作用しますが、相反する作用をいくつも持っています。
その一つが女性ホルモンの代表であるエストロゲンに対して、黄体ホルモンは男性ホルモン作用を持っています。
通常、排卵後に黄体ホルモンが分泌されますが、月経前に肌荒れ、ニキビなど、男性ホルモン作用がみられることから理解しやすいと思います。
第4世代のヤーズに含まれるDRSP(ドロスピレノン)は、子宮内膜症や月経困難症に用いられるジエノゲストと同様に、男性ホルモン作用が全くないプロゲスチンです。
低用量ピルと超低用量ピルはどのように違うのですか?
上に書いたEEは、血栓症などの副作用を来す原因となります。よって、血栓症などのリスクが高く、低用量ピルを服用出来ない方はEEを含まない黄体ホルモン製剤(POP)やミレーナなどを選択することが多いです。
低用量ピルとは、副作用を減らす目的に、含まれるEEを極力少なく設計されています。このホルモン量は、ぎりぎり不正出血が起こりにくい量に設定されており、つまり飲み忘れや体調の変化、また体質によっては不正出血が起こりやすくなってしまう理由です。
従来低用量ピルには30〜40㎍のEEが含まれていましたが、ルナベルULDの登場で、EEは20㎍と一気に減らされ、そのため「超」低用量ピル、と俗語的に呼ばれているのです。
一相性と三相性のピルはどのように違いますか?
ピルに含まれるEEとプロゲスチンは、その配合パターンによって一相性と三相性に分けられます。
一相性とは、含まれるEEとプロゲスチンには変化がなく、毎日同じ分量を服用します。
それに対して三相性とは、21日間の実薬の中で、含有量を3パターン変化させるもので、国内では3種類製造されていますが、当院ではトリキュラー(ラベルフィーユ)のみを取り扱っています。
黄体ホルモンは体調の変化に関係するため、PMSの治療としては一相性の方が優れているとされています。
一方で三相性ピルは、内服を始めた数ヶ月くらいにみられやすい不正出血が少ない傾向にあり、月経不順や不正出血、避妊を目的とした服用に向いている傾向があります。
一相性は毎日同じ量のピルを服用しますが、三相性では成分が異なるため、飲み間違いには注意が必要です。
周期投与とか、連続投与とか、フレックス投与の違いはなんですか?
一般的なピルは、21日間の実薬(ホルモンが入っている本当の薬)内服期間と7日間の休薬期間(ホルモンが入っていないプラセボを服用するか何も服用しない)があり、またヤーズとドロエチのみ24日間の実薬と4日間の休薬(プラセボ)ですが、これを周期投与と呼び、28日毎に出血が起こります。
これに対して、ジェミーナは、周期投与と連続投与を選ぶことができ、連続投与の場合は77日間の実薬と7日間の休薬で、約3ヶ月毎の周期を作ることが出来ます。
ヤーズフレックスはやや面倒な方法ではありますが、途中で不正出血が無ければ最長120日間の実薬と4日間の休薬となり、4ヶ月毎の周期となります。途中で不正出血が3日続いた場合、4日休薬します。
連続投与やフレックス投与のメリットはいくつかありますが、
・痛みや出血が起こる日数を減らせる
・特に卵巣チョコレート嚢胞などの子宮内膜症に対する治療効果
を挙げることが出来ます。
一方で連続投与やフレックス投与は、内服期間が長期にわたるため不正出血を起こしやすいです。
それぞれのピルの長所はなんですか?
上に述べてきた以外の長所は、LEPの中ではジェネリック薬である、フリウェルやドロエチが大変安価であることです。
薬剤料だけでいうと、1シートあたり500円以下〜800円弱で、月経困難症の方のみが適応となりますが、とても心強いですね。
ヤーズ(ドロエチ)では上に書いた男性ホルモン作用がないことに加えて、抗ミネラルコルチコイド作用から、最もむくみを起こしにくいピルです。
ジェミーナは、プロゲスチンにレボノルゲストレレルを用いており、頭痛を起こしにくく、また月経痛を軽減する作用が最も強く、さらに連続投与でその効果が強くなります。またヤーズのドロスピレノンのデメリットである抑うつ傾向も出にくいです。
それぞれのピルの短所はありますか?
ヤーズ(ドロエチ)の男性ホルモン作用がない点はメリットである一方で、デメリットにもなりえます。
男性ホルモンは、女性の皆さんも、もちろん男性と比べるとずっと少ない量ですが、分泌されています。
男性ホルモンは男性作用、これはニキビや多毛をもたらしますが、同時にやる気やモチベーションアップ、性欲などの精神的な作用も有しています。男性ホルモン作用を抑えすぎると、うつや、気分の落ち込みがみられることもあります。
当院でも成績不振に悩んでらっしゃった格闘系のトップアスリートの方が受診されました。話を伺うとヤーズを服用してから、とのことだったので、上記の理由から他の製剤に変更したところ、うまくマッチして成績が戻った、と報告してくれました。
一例ですが、選択する薬剤の特徴を活かせたと考えられました。
低用量ピルを使う目的、理由はさまざまですが、最も適した製剤を選択するお手伝いをしたいと思っていますので、診察室で相談致しましょう。
よくあるご質問にお答えします。
低用量ピルの種類によって効果は異なりますか?
基本的に生理痛に対しては、どのピルも、高い効果が期待できます。また、生理不順には、周期投与を行うことで、28日ごとの出血を起こすことができます。
避妊効果も、飲み忘れや胃腸障害などのトラブルがなければ、ほとんど妊娠することはありません。
PMSや肌荒れは、ピルの種類によって、効果に差があります。
いずれの効果も、ほとんどの方にとっては効果的ですが、どうしても個人差があるため、あまり効果を実感しない、とか、効果が弱いピルの方がとてもよく効く、など、内服してみて評価すべきです。
低用量ピルは保険適用されますか?
月経困難症や、子宮内膜症に伴う疼痛がある場合、保険のピル、上にも書いたLEPの処方が可能です。
その他の目的の場合には、自費で処方されるOCを服用します。
低用量ピルを選ぶ際のポイントは何ですか?
目的はなんであるか、によります。
避妊効果は共通していますが、月経痛の改善、子宮内膜症の治療効果、PMS、生理不順、肌荒れなど、症状は複数あるかも知れません。できれば一つの薬だけで複数の症状に対しての効果があると理想的だと思います。
それらを考え、適切な低用量ピルの選択をお手伝いします。
低用量ピルの種類によって副作用やリスクは異なりますか?
もっとも心配される副作用は、血栓症です。血管の中で血液が固まり血栓を作り、この血栓が肺や心臓、脳など、大切な臓器の血管に詰まってしまう病気で、頻度はとても低いものの、起こると大変な、場合によっては生命を脅かす副作用です。
これはかつて、ドロスピレノン含有のピルに多いと言われたことがありますが、現在ではピルの種類に差がないとされています。
また、不正出血を起こしやすいのが一相性であったり、超低用量ピルであったり、など、いくつかありますが、マイナートラブルの範囲で、治療選択の際や、治療してからのトラブルに応じて変更を検討したら良いと思います。
低用量ピルや黄体ホルモン製剤について解説動画を作成しました。
初出:令和4年3月5日
補筆修正:令和4年4月26日、7月13日、10月18日、12月15日
補筆修正:令和5年4月11日、8月15日
補筆修正:令和6年4月4日、9月6日、7日