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人工授精と体外受精の違い

生殖医療(不妊治療)で行われる体外受精など生殖補助医療(高度生殖医療)と、人工授精の違いについて質問をいただきます。

この生殖補助医療と人工授精は、同じ不妊治療と言っても全く異なる方法です。

それぞれの特徴

人工授精は、通常の性交渉の代わりに行われます。

そのため排卵、受精、着床は、性交渉で妊娠するのと同じ条件で、かつて言われていたような、タイミング法の次の単純なステップアップとは、現在は位置づけられていません。「早く妊娠したいから」「性交渉で妊娠しないから」と言う理由では適応になりません(治療成績が決して良い治療法ではありません)。

不妊原因の1つに、性交障害や射精障害があります。腟内で射精されないので、妊娠できません。人工授精は排卵期に合わせて、マスターベーションで採取された精液を処理し、子宮内に注入する方法で、性交渉の代わりとなります。

一方で体外受精など生殖補助医療は、主に注射剤による卵巣刺激(排卵誘発)を行います。卵巣刺激法には多くの種類がありますが、産婦人科クリニックさくらでは多くの方に最も治療成績の良い、ロング法を勧めています。
しかし、ロング法では多くの卵胞が発育しますので、一般生殖医療であるタイミング法や人工授精では多胎妊娠予防のため、ロング法を行うことができません。

また、生殖補助医療では、タイミング法や人工授精では妊娠が困難な、極度に精子が少ない場合でも、顕微授精を行うことができます。
この点は人工授精よりもアドバンテージが高い点で、他にも卵管の異常や、月経期、排卵期、黄体期それぞれのホルモン分泌に問題があっても、治療することができるため、原因不明不妊でも早期に結果が出やすいです。約半数の方が、1回の治療で妊娠しています。

治療コスト

治療費は4月の不妊治療保険適用により、保険でカバーされるものがほとんどとなりました。

また反対に保険と自費診療を同時に行う混合診療が厳しく制限されているため、保険診療を行う場合は、一切の自費診療を併用することができません。

人工授精自体は、施設により異なりますが、1回 5,460円の自己負担があります。

体外受精は、当院の治療実績から、1回の採卵周期あたり、平均9万円から最高18万円の自己負担があります。使用する薬剤やその量、通院回数、検査の回数、採卵で採れる卵子の数、凍結保存できる胚の数などによって幅があります。

自費の場合も、卵巣刺激法により大きく異なり、最も多くの方にお勧めしているロング法では30〜50万円ほどになります。

生殖医療では一部の自治体で保険診療以外の助成制度があります。

・一般不妊治療:当院の近隣では、東京都大和市など一部に限られています。

通院

人工授精はあくまでも性交渉の代わりなので、通院はタイミング法とほとんど同じで、さらに人工授精当日の来院が必要です。

つまり、排卵日の前から通院を開始し、排卵日を予測。
排卵2日前が最も妊娠しやすく、排卵翌日まで妊娠が可能です(当院データ)。

排卵日を予測したら、上記のうち都合の良い日程に人工授精を設定し、当日ご主人の精液を持参していただきます。

ご主人が単身赴任していたり、長期出張される場合には、あらかじめ精液を凍結保存しておき、人工授精当日に使用することもできますが、自費診療となるため現実的には選択しないカップルがほとんどです。

人工授精当日は、お預かりした精液を1時間半ほど処理した後に人工授精します。


体外受精では、上のコストと同様に、卵巣刺激法により通院の回数も大きく異なります。

多くの方にお勧めしているロング法や、PPOS法では、基本的に連日注射のために通院して頂きます。どうしても来院できない日は調整することもできます。当院の休診日も同様です。

毎日の通院は難しいけれど、自分で注射をやってみよう、と思われる方には自己注射(ゴナールエフペンまたはレコベル)を指導致します。

連日注射で通院の場合でも、診察したり、診察の結果採血したりするのは、数日に1回です。
つまり自己注射の場合なら、数日に1回の通院で治療することができます。

連日注射も、自己注射も難しい方には、内服の卵巣刺激を勧めています。内服法では、通院は人工授精とほとんど同じ通院スケジュールです。

妊娠・出産率

人工授精と体外受精の最も大きな違いの一つが妊娠・出産率です。

上の表にもあるように、令和3年の当院の治療成績では、体外受精など高度生殖医療で胚移植を行った場合、出産率は25.1%(4回の胚移植で1人出産)でした。また最も妊娠・出産率の高い30歳まででは、出産率は実に57.1%(2回の胚移植で1人以上出産)でした。
さらに、出産された方の半数以上は、採卵・胚移植ともに1回目の治療で妊娠・出産しており、つまり1回の治療で目的を達成できています。

一方で人工授精での出産率は、わずか5.3%(18回の人工授精で1人出産)に過ぎません。人工授精はタイミング法の代わりなので、タイミング法で妊娠しないと、人工授精でも妊娠は難しいのです。

人工授精でも出産された方の38.2%は初回の人工授精で妊娠、出産しています。

合併症

どんな医療行為でも、合併症が全くない、と言うものはほとんどありません。

人工授精では、精液を処理して子宮内に注入しますが、その際になるべく夾雑物を取り除くためにフィルターを使用しています。しかし、精液自体を消毒したり、滅菌したりすることができません。精子が死んでしまうからです。

そのため人工授精では、人工授精の前後の食後に抗生物質を服用していただき、感染予防としています。

生殖補助医療では、卵巣刺激に用いる排卵誘発剤、主に注射剤で、卵巣過剰刺激症候群を発症することがあります。また、採卵では卵巣に直接、針を刺すため卵巣からの出血や、周囲の子宮、腸管、膀胱の損傷に十分注意して行っています。採卵も感染のリスクがあるため、腟内を念入りに消毒し、さらに人工授精と同様に抗生物質による感染予防を行っています。

生殖補助医療でできる「受精卵バンク」

高度生殖医療のメリットの中でも大きいのが、受精卵を凍結保存しておける点です。

妊娠すると、出産、授乳、育児を経て次のお子さんを考えるのは2、3年先となる方が多いです。2、3年後は今より2、3歳年齢が上がるため、現在よりも妊娠しにくくなっている可能性があります。

女性が加齢により妊娠しにくくなるのは、子宮筋腫などの病気を除けば、主には卵巣の機能が低下することで、子宮は老化して妊娠しにくくなる、と言うことがほとんどありません。

つまり、現在の受精卵が保存しておければ、数年後に次の妊娠を考えたときに、数年若いときの受精卵を使って妊娠することが出来ます。

こういう意味からも、生殖補助医療は、お二人の家族計画に合わせた治療が提供できる方法と言えるかもしれません。人工受精

生殖補助医療について解説した動画を作成しています。

最新のデータをもとに治療成績と 新しい治療戦略を解説した動画を アップデートしました。


またこちらは保険診療で行う実際の方法を解説したものです。

文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)

初出:令和元年5月4日
補筆修正:令和2年2月11日、4月30日、8月24日
補筆修正:令和3年3月15日、12月4日
補筆修正:令和4年9月15日、12月23日
補筆修正:令和5年2月11日、3月3日、11月16日、12月15日