HPVワクチンは、子宮頸がんなどの、HPVが原因の病気の予防に効果があります。
令和4年度より開始された「積極的勧奨の再開」「キャッチアップ接種」「償還払い」は、必要とされる世代の方たちへのHPVワクチン普及に大きな前進ではありますが、新たに昨年度、令和5年度から、9価ワクチンが公費接種化されたり、キャッチアップ接種に採用されたり、また交互接種が認められています。
昨年10月からのHPVワクチンの供給不足は現在解消されており、当院でも新規接種の開始や予約外の接種も承っていますが、3月以降、再度の供給不足が心配されています。
ただし、来年令和7年3月までに1回でもHPVワクチンを接種しておけば、無料接種期間が延長し、再来年令和8年3月末まで、となります。
ここでは、診察室で患者さんやご家族、知人や講演先、また医師の先生方からも、よくお寄せいただくご質問にお答えしますので、どうぞHPVワクチン接種の参考にしてください。
また新たに横浜市で開始した、HPV検査単独法についても載せています。
この記事の目次
HPVワクチン接種するメリット
打った方がいいですか?
はい。お子さんの将来の健康のため、打った方が良いです。
子宮頸がんに罹ってしまった患者さんは、私たちの時にもワクチンがあったなら、と言います。
また、子宮頸がんの前がん病変と言える異形成で通院している患者さんも、同じように、打っておいたら良かった、と後悔しています。
予防接種なので、接種せずにHPVにかかってしまった方にしか、後悔するその気持ちはわからないのかもしれません。
ワクチンを打つべきか、悩まれることも多いと思いますが、国や専門家が議論し尽くした末に決定したワクチン接種は、心配なさらずに、むしろ積極的に接種した方が良いです。現に医療従事者なら、HPVも、コロナも、インフルエンザも、ワクチン接種は規定通りに受けています。ワクチンが疑わしい、健康被害を心配していたら、我々は打たないでしょう。
HPVワクチンの子宮頸がん発がん抑制効果はこちらをご覧ください。
お子さんに打ってますか?
はい。もちろんです。
院長の私には息子しかおりませんが、男性ですけど後で書く様に、接種を済ませています。
また、姪たち、親族の女子には全員接種させています。
危険性よりメリットの方が上回るワクチンだからこそ、大切な身内にも接種させているのです。
定期接種(公費助成)について
なぜいまになって積極的勧奨が再開されたのでしょうか。
本当にそう思われても仕方がありませんね。再開された、ということは、過去と違って今は安全になったのですか?と言うご質問につながるんだと思います。
よく言われているように、ワクチンが新しくなったのではなく、改めてワクチンの安全性と有効性が確認されたため、積極的勧奨が再開されました。
平成25(2013)年、HPVワクチンの積極的勧奨の中止は、それまで子宮頸がんという悲惨な病気を「撲滅」できるかもしれない、との産婦人科医の期待を打ち砕きました。
その後、間もなく効果や安全性について海外のデータが紹介され、国内での検証も行われましたが、それでも厚労省や自治体は重い腰をあげませんでした。メディアや国民からの批判を恐れたからです。三原じゅん子先生や自見はなこ先生の様に、国会で活発な活動をしてくださってもなかなか進みませんでした。
積極的勧奨の再開は、何か大きな政治的決断があれば一気に進んだと思うのですが、一歩一歩、皆さんの誤解を解く様に、ようやく実を結んだものです。
ですので、突然の再開、ではなく、3年ほど前からいよいよ、いよいよ、という感じで少しずつ進んできたものでした。メディアは過去に批判を繰り返して来たため、その辺りもほとんど取り上げなかったので、皆さんには唐突に感じられたのかもしれません。
9価ワクチンの定期接種化はいつから行われていますか?
令和5年度から、9価ワクチンを公費助成とすることが決定され、また交互接種も認められています。
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交互接種とは、1、2回目に2価または4価を接種した後で9価ワクチンを接種することで、ワクチンの効果や安全性のデータがあります。
また、小6生から14歳までに9価の接種を開始した場合、2回接種、と言って、初回から5ヶ月以上空けた、2回のみの接種も行われています。
キャッチアップ接種
「キャッチアップ接種」とは、公費助成を受けられる高1生相当までに受けられなかった方を対象に、令和6年度に27歳になる女性にワクチンを公費接種できるようにした制度です。
キャッチアップ接種はいつまで無料で接種できますか?
27歳までの女性と、今年高1生相当になる皆さんへの無料接種期間が、1年間延長され、再来年令和8年3月末までとなりました。
ただし、今年令和7年3月までに1回でも接種を終えた方が対象なので、どうか、1回でも接種を済ませてほしいです。
昨年10月からのHPVワクチン供給制限は現在解消されています。当院でもネット予約、新規予約など再開しています。
すでに1回(または2回)打ったのですが、キャッチアップ接種で3回目まで打ったほうがいいですか?
はい、HPVワクチンは、2回目、3回目ともに、前回接種からの期間が空いてしまっても、3回の接種を終えることが望ましいです。
1回だけでもある程度、HPVに対する抗体価(抵抗力)が得られますが、2回目以降はその抗体価を長く維持するためのブースター効果と考えられています。
ですから、例えば、妊娠や出産で接種間隔が長期間、空いてしまった場合でも、授乳が終わってから3回目まで接種することが勧められています。
間隔が空いたら1回目からやり直し、とか、前回からの時間が空いたらもう打てない、また無料で接種ができない、と言った誤った指導や誤解されている方もいらっしゃいますので、ご注意ください。
またワクチンの種類も、交互接種が認められ、過去に接種したものと異なるワクチンを接種でき、9価ワクチンも接種できます。
高3で大学受験を控えていますが、どうしたらいいでしょうか。
キャッチアップ接種の世代ですが、受験期間中は接種部位の痛みが勉強の支障になるのではないか、とか、副反応を心配される方もいらっしゃいます。
無料接種期間が延長されたため、受験が終わってから接種しても間に合うことになりました。
診察室で相談していただけたら、もっと色々なアドバイスができるかもしれません。
9価ワクチンの追加接種
予定通り接種を終えたのですが、改めて9価ワクチンを打てますか?
キャッチアップ接種、定期接種が進み、現在適応となっている9価ワクチンがよく知られるようになったためか、多くの方からご質問をいただいています。
せっかく2価や4価ワクチンの3回の接種を終えたものの、さらに9価のワクチンが登場して、しかも公費接種できるのであれば改めて9価を接種したい、というお気持ちは十分わかるのですが、追加接種の必要性、有用性、安全性から、現在のところ、追加して接種はできません。
過去にいち早く接種し、それまでの予防効果もあったと思いますが、今後もどうぞ子宮頸がん検診を受けていただき、予防+早期発見に努めて下さい。
男性へのHPVワクチン
男性でも打てますか?
男性へのHPVワクチン接種については、こちらにまとめています。
現段階では4価ワクチンのみが対象ですが、MSD社から9価ワクチンの男性への適応申請が出されています。
残念ながら現在は公費接種ではないため、自費での接種となりますが、東京都をはじめ、多くの自治体で、全額、または一部助成金が支給されています。
男性自身の健康のため、またパートナーとなる女性のため、いち早い男性への公費接種が望まれています。
副反応について
副反応が心配です。
「過去のニュースで副反応で歩けなくなった映像などを見て、打ってはいけないワクチンだと思いこんでいました」
副反応のショッキングな映像は、今でも強く焼き付いている方もいらっしゃると思います。副反応、副作用が起こってしまった方は本当に気の毒ですが、当時のメディアが執拗にネガティブキャンペーンを行っていたため、多くの方が危険なワクチンである、と思い込まされてしまいました。特にキャッチアップ接種世代の保護者の方たちは、記憶が鮮明のようで、キャッチアップ接種を受けるつもりは全くない、とおっしゃる方も。定期接種世代の保護者はワクチン接種を前向きに考えており、対照的です。
しかし、副反応の発生頻度よりも予防効果の恩恵を受けられる方がずっと多いことを知っていただきたく、改めて接種の必要性を考えていただきたいと思います。
HPVワクチンの副反応では、どれくらいの方が、またどの様な症状で相談があったのでしょうか?
当院ではこれまでに3100回を超える方がHPVワクチンを接種しました(令和6年9月末現在)。現在まで重篤な副反応はなかったので、重篤な副反応の確率は1/3100=0.03%以下、といえます。
しかし、国内では338万人の方が890万回接種を受けていて、厚生労働省に登録された副反応が疑われる報告があったのは2,584人(接種者の0.08%)、そのうち186名(接種者の0.006%)の方の改善が見られていないそうです。
この資料の中に、
「未回復の186人の症状は、多い順に、頭痛66人、倦怠感58人、関節痛49人、接種部位以外の疼痛42人、筋肉痛35人、筋力低下34人 」
との記載があります。
2価、4価、9価のワクチンで、副反応に差がありますか?
痛みの副反応は、2価ワクチンが4価ワクチンよりも強い印象で、当院の患者さんアンケートでも同様でした。
また9価ワクチンも4価よりも痛みが強いとされていますが、接種している現場ではほとんど差がないように思えます。また各ワクチンの間で、問題となるような重篤な副反応には差がなく、また9価ワクチンは今までのところ重症例は皆無だそうです。
当院での9価ワクチンの副反応は以下の通りでした。
4分の3を超える方が、全く副反応がないと答え、4分の1の中で最も多いのが「軽い痛み」でした。お一人だけ蕁麻疹が出た方がいらっしゃいましたが、重篤な副反応はありませんでした。
HPV検査・感染
HPVに感染しているかどうかを調べる検査はありますか?
はい、あります。
細胞診(通常の子宮頸がん検査)が正常な方、また健診として行う場合は自費検査となり、4,000円くらいから行うことができます。日本では細胞診の異常があると、条件がありますがHPVを保険で検査ができます。
海外では子宮頸がん検診としてまずHPVを検査し、HPVを持っている場合に細胞診を行うHPV firstの時代となっています(HPV検査単独法と呼びます)。国内でも活発に議論されており、令和2年に発表された国立がん研究センターのガイドラインでは、子宮頸がん検診として、細胞診とHPV検査が同じ重要性で併記され、令和6年から自治体の検診に採用されることが可能となりました。
横浜市では、いち早く令和7年1月から、HPV単独検診が行われています。
HPV検査単独法についてはこちらの動画もご覧ください。
既にHPVに感染していますが、ワクチンを打つことで発がんリスクを下げることができますか?
あくまでも感染を予防するワクチンなので、すでに感染しているHPVをなくす効果はありません。
しかし、9価ワクチンに含まれるハイリスク7種類の全てのHPVに感染している方は、皆無と言えますので、ワクチンを打つ意味はないとは言えず、発がんリスクを下げてくれる効果を期待して良いと思います。
また最近では、異形成や初期の子宮頸がんを円錐切除術で治療した後のHPVワクチンの効果も報告されています(Petras M et al. 2013)。
30〜50代の女性は接種しても効果はありませんか?
ワクチン接種は年齢が若いほど効果的、とされています。
若年の方がこれまでの性交回数が少なく、これまでのパートナーも少ないため、HPVに感染している可能性が低いからです。また若年の方がより抗体価が上昇する、つまり予防効果も高いからです。
10-20代、と30-50代、と集団で比較すると、若年の方が予防効果が高い、という意味ですが、30〜50代で接種する必要は、個人個人のレベルでは完全にないとは言えません。実際に当院でも接種している患者さんも少なからずいらっしゃいます。
接種間隔
HPVワクチンを予定された日程で接種できないのですが。
HPVワクチンの接種間隔は、
2価ワクチンは、初回、初回の1ヶ月後、初回の6ヶ月後、と接種しますが、
・1回目
・2回目:1回目の1〜2.5ヶ月後
・3回目:1回目の5〜12ヶ月後
とすることが認められています。また、
4価、9価ワクチンともに、初回、初回の2ヶ月後、初回の6ヶ月後、と接種しますが、
・2回目:1回目の1〜2ヶ月後
・3回目:2回目の3〜4ヶ月後
とすることも認められています。
さらに9価ワクチンの2回接種は、
・2回目:1回目から5〜12ヶ月後
となります。
試験などの日程や留学など、また最近ではコロナワクチンとの兼ね合いから、規定された接種間隔に変更を余儀なくされる場合があります。高1生からキャッチアップの無料接種期間も延長されましたので、どうぞ遠慮なく診察室で相談なさってください。
こちらの記事「HPVワクチン接種を最短で終えたいのですが 〜接種間隔のご質問〜」も参考にして下さい。
HPVワクチンの限定出荷により、予定通りワクチンが接種できない場合、効果が弱くなってしまいませんか?
昨年10月、HPVワクチンの限定出荷により、全国的な供給制限が生じ、多くの方からご質問をいただきました。
現在では供給が回復し、新規接種の方も受け付けています。
さて、このようにワクチン接種が予定通りに行かず、延期となってしまった場合に、ワクチンが効かなくなってしまうのではないか、とのご心配があると思います。
これは心配には及ばず、ワクチンの効果は弱くなってしまうことがありません。
詳しくはこちらのご案内の文末の、ご質問とお答えをご覧下さい。
コロナワクチンやインフルエンザの予防接種などはどのように接種したらいいですか?
風疹などの生ワクチンは、他のワクチンとの接種間隔が定められていますが、コロナワクチンやインフルエンザと同様、HPVワクチンも、他のワクチンと同時接種が可能で、また他のワクチンとの接種間隔も空ける必要がありません。
接種のおすすめはやはり9価なのでしょうか?
はい。やはり2価、4価を接種された方でも、16、18以外のHPVで異形成となっている方もいらっしゃいます。今なら9価があったんですよね、と話される患者さんも。
すでに3回の接種を終えた方は、追加接種は必要ないとされていますが、1、2回の方は残りの接種を9価に切り替える、交互接種を考慮しても良いと思います。
まだ15歳にならないのですが、15歳まで待って3回打ちたいのですが。
令和5年度より、15歳未満で9価ワクチンの接種を開始した場合の、2回接種が認められました。
これは15歳未満の2回接種と、15歳以上の3回接種で、予防効果を表す抗体価の上昇に違いがないことが示されたためです。
つまり、年齢が若いほど、抗体が高くなることから、なるべく早くワクチンを接種しましょう、という勧めになっています。
一方で、15歳未満では2回しか接種してもらえないので、15歳まで待って3回打ちたい、と言う方がいらっしゃいますが、これには二つの誤解があります。
一つは上記に示した通り、3回打つ必要が無いことで、もう一つは、希望すれば15歳未満に開始しても3回接種することが出来ます。
大切なのは待つのでは無く、早く接種を開始することです。
2価や4価のワクチンは今後、なくなってしまいますか?
9価ワクチンが公費助成化され、確かに公費で2価、4価を選択する方はほとんどいません。
しかし、キャッチアップ接種や、自費で接種する場合の選択肢として、また男性は4価ワクチンのみ適応となっていますので、しばらくは日本国内でも接種は可能であると思われます。
親が打たないでくれ、って言うんです。
自分は打とうと思っている、打ちたいと思っているけど、親が、と、こうおっしゃるキャッチアップ接種世代の方は少なくありません。おそらく親御さんにとって、かつての積極的勧奨の中止のころの記憶が強いのでしょう。
ただ、ようやく積極的勧奨が再開され、と同時にキャッチアップ接種のお知らせが届いた、という意味をもう一度考えて欲しいのです。
医師の話や講演を聴く機会も少なくありません。院長の私の講演を聴いて安心した、打たせようと思った、と考えを変えてくれた方もたくさんいらっしゃいます。
解説動画のご案内
HPVやHPV関連の病気について解説した動画です。
新たに「子宮頸がんワクチン、打ってはいけない!?」を作成しました。
また、HPVワクチンのお話はこちらです。
またこのページの記事をもとにしたご質問に答えた動画も作成しています。
YOKOHAMA・KANAGAWA HPV PROJECT by Etsuko Miyagiさんが作成された動画もどうぞご覧下さい。
文責:桜井明弘(日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和4年10月18日
補筆修正:令和4年10月19日、27日、11月11日、30日、12月22日
補筆修正:令和5年1月18日、3月10日、3月24日、4月6日、26日、8月9日、12月25日
補筆修正:令和6年2月16日、5月9日、13日、15日、31日、9月22日、25日、29日、10月17日
補筆修正:令和7年2月9日