男性のHPVワクチン接種が話題になっていますが、HPV感染が男性不妊の原因となる可能性が発表されました。
この記事の目次
HPVは子宮頸がんの原因ですが、男性がかかった場合には?
HPVはヒトパピローマウイルスのことで、子宮頸がんや尖圭コンジローマのようなSTIなど、様々な癌、病気の原因となることが分かっています。
男性ではその他にも肛門がん、陰茎がん、また坂本龍一さんも闘病された中咽頭がんや舌がんなどの原因となり、男性もHPVワクチンを接種することの有効性が分かっています(Harder T et al. 2018、Rosado C et al. 2023、Quinn S and Goldman RD. 2015)。
日本では男性のHPVワクチン接種はどうなっていますか?
現在日本では、国の施策として、小6から令和6年度に27歳になる女性に定期接種・キャッチアップ接種が行われていますが、諸外国で開始されている男性への定期接種はいまだに行われていません。
日本では男性にHPVワクチンを打ってはいけないのでしょうか。
いえ、令和2年12月25日、4価のHPVワクチン、ガーダシル®︎の承認事項が変更され、自費診療ではありますが、接種している方も増えてきています。
院長の家族も、HPVワクチンの接種を終了しています。
ガーダシルは、女性と同じプログラムで接種します。
3回の接種が必要で、主に腕に筋肉注射を行います。
初回から2回目は2ヶ月空けて、2回目から3回目は4ヶ月空けて、合計3回のワクチンを6ヶ月かけて接種します。女性と同じく、接種間隔を早めたり、遅くすることも可能です。
男性のHPVワクチン接種、新しい動きは?
ここへ来て次々と自治体が男性のHPVワクチン接種を助成する動きが見られています。
多くの自治体で、男性への助成が開始されていますが、東京では23区中22区で助成があるそうです。
横浜市では助成の動きは全くありませんが、HPV接種の必要性を実感しているご家庭からは、接種にいらしている患者さんも当院には複数いらしてます。
男性のHPV感染が男性不妊の原因に!?
さらに我々にとってもショックな報告がありました。それは、HPV感染が、発がんや尖圭コンジローマの原因となるだけではなく、男性不妊の原因となる可能性が報告されたのです(Olivera C. et al. 2024)。
これによると、対象者の19%の精液からHPVが検出され、子宮頸がんでも最も多いHPV-16がやはり多かったそうです。発がん性の高リスクHPVが陽性であっても精液所見(精液量、精子の濃度、運動性など)には影響がありませんでしたが、精子の壊死、活性酸素種(ROS)が陽性の精子が多く、生殖機能への悪影響が懸念されています。
海外では男性へのHPVワクチン接種はどのように行われていますか?
これまでは子宮頸がん予防ワクチン、と呼ばれることが多かったですが、男性への接種も広がることにより、ヒトパピローマウイルスワクチン=HPVワクチンと一般的に呼ばれるようになっています。
海外では例えば豪州では、すでに2013年から男子にもHPVワクチン接種が開始され、米英、フィンランドなどの北欧諸国でも同様に行われ、現在は59か国で男性へのHPVワクチンの定期接種が行われています。特に豪州、英国では学校での集団接種の効果で男女ともに80%以上の接種率です。
日本でHPVワクチンの接種が始まった13年前に、国際HPV学会に参加する機会を頂きました。日本ではようやく女性への接種が始まったのに、発表されていたのは、すでに男性への接種とその効果が報告されており、またしても日本の周回遅れの感が否めなかったです。
そして、日本ではHPVワクチン接種が中断されてしまい、WHOからも批判される事態となってしまいました。ようやく女子の接種が再開されていますが、今後は1日も早く、男女揃ってHPVワクチンを受けられるようにしたいものです。
男女ともにワクチンを接種し、抗体を持つことでHPVにかかりにくくなり、ひいては真の集団免疫を獲得する手段となるのです。
しかし、このような報道は大手メディアでは驚くほど全く取り上げられていません。かつてHPVワクチン批判を繰り返してきたからでしょうか。偏向報道と揶揄されても仕方ないと思います。本当に日本国民のことを思うならば、正しい報道をして欲しいと切に願います。
とある大手新聞社の記者の方とお話しする機会を得ましたが、自らが行なったかつてのHPVワクチン批判報道を反省されていました。しかし、組織としてその批判を覆す報道ができない、と。
私も自分の専門外は分かりかねますが、ポピュリズムではない、真の報道機関であってほしいと思います。
よくいただくご質問にお答えします。
男性がHPVワクチンを接種するメリットはなんですか?
メリットは大きく二つあります。
まず接種したご自身の将来的な発癌や尖圭コンジローマの予防効果です。子宮頸がんと同様に、がんを予防できるワクチンは他にはありません。尖圭コンジローマも一度感染すると、生涯その再発に悩まされる可能性があります。いずれもHPVに感染してからではワクチンの効果がないのです。
もう一つはパートナーの身体を守ることになるということです。HPVワクチンの効果でHPVに感染していなければ、パートナーにうつしてしまう心配がありません。もちろんパートナーもHPVワクチンを摂取すべきですが、アレルギーなどの理由でワクチンを接種できない方もいらっしゃるのです。
男性のHPVワクチンは何歳から何歳まで接種できますか?
男性は9歳以降で上限はありません。特にHPV感染のきっかけとなる性交経験の前に接種することが、最も効果的ではあります。
男性向けのHPVワクチンと女性向けのものと、効果や接種回数、スケジュールに違いはありますか?
現在男性が接種できるHPVワクチンは、4価ワクチンのみで、女性に接種するものと同じです。
効果や接種回数、スケジュールも全く同じなので、
1回目から2回目は、1〜2ヶ月後
2回目から3回目は、3〜4ヶ月後
となります。
男性のHPVワクチン接種も公費で受けられますか? 費用はどれくらいですか?
HPVワクチンは自費による任意接種のため、医療機関により接種費用は異なります。
当院では、4価ワクチンは、1回あたり17,600円、3回分で51,700円(いずれも税込)です。
東京都の自治体をはじめ、多くの自治体で男性のHPVワクチン接種に対して助成が受けられます。自治体により金額は様々ですが、中には女性と同じように無料で受けられる自治体もあります。
横浜市ではまだ予定がありませんが、お住まいの自治体のHPなどで検索してみて下さい。
男性も女性と同じ9価ワクチンを接種できますか?
最も予防効果が高いワクチンは9価ワクチンですが、現在日本では女性のみが適応となっているため、男性は受けることができません。
理由はいくつかありますが、男性への効果と安全性が検証されていないのが最も大きな理由です。
とはいえ、欧米各国でも男性へのHPVワクチンには9価ワクチンが用いられていますので、本邦でも9価ワクチンを接種できるようにしたいものです。
令和5年度より9価ワクチンの公費接種、交互接種も開始されています。残る要望は、男性の公費接種化と、男性への9価ワクチン適応拡大です。
HPVワクチンに関して頂くご質問に回答した動画を公開しています。
また、男性への接種も含め、HPVに関連する病気とHPVワクチンについて解説しました。
文責 櫻井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和2年12月8日
補筆修正:令和2年12月30日
補筆修正:令和3年3月14日、7月19日、11月26日
補筆修正:令和4年6月29日、9月13日、10月8日、25日、11月7日、21日
補筆修正:令和5年3月23日、4月14日、27日、6月6日、26日、8月2日、9月9日、11日、11月13日
補筆修正:令和6年年2月3日、3月9日、27日、7月5日、9月24日、25日、10月6日、HPV感染が男性不妊になる可能性が報告されたため、全面的に補筆修正しました。