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体外受精に進む前に、もう少しできる検査や治療はありませんか? 〜 次のステップを考える〜

タイミング法で妊娠された方の多くは、5周期以内に妊娠しています。6周期以降の妊娠は非常に少なくなり、タイミング法を長く続けることは妊娠への近道ではありません。

また人工授精の1回あたりの出産率もタイミング法と同様に約5%にとどまり、かつてのような「段階的ステップアップの中間治療」としての位置づけは薄れてきています。

一方、当院の生殖補助医療(ART)の成績は、1回の胚移植あたりの出産率が20%を超えており、特に初回胚移植の出産率は51.9%(2025年)と、過半数の方が初回移植で出産されています。

こうした治療成績と保険適用の拡大を背景に、早期にARTを選択されるカップルも珍しくなくなりました。ただ「もう少し何かできることはないか」とお感じになる方も多く、その気持ちはとても自然なことです。以下に、ARTにステップアップする前に検討できる選択肢をまとめました。

 

原因不明不妊へのレトロゾール内服

検査で明らかな異常が見つからないにもかかわらず妊娠しない状態を原因不明不妊(unexplained infertility)といいます。

こうしたケースでは、排卵のタイミングや卵子の質に軽微な問題が隠れていることがあり、レトロゾール(フェマーラ®が有効な場合があります。

レトロゾールはアロマターゼ阻害薬で、エストロゲンの産生を一時的に抑えることでFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌を高め、より良い卵胞発育を促します。クロミフェン(クロミッド®と比較して、子宮内膜が薄くなりにくく、多胎妊娠のリスクも低いとされています。原因不明不妊のタイミング指導や人工授精との併用で、妊娠率の改善が期待できます。

多囊胞性卵巣の方だけでなく、原因不明不妊への保険適用が広がりました。

子宮内フローラ検査で着床環境を整える

子宮内腔は無菌ではなく、独自の細菌叢(フローラ)が存在します。乳酸桿菌(ラクトバチラス属)が豊富な環境が着床に有利とされており、乳酸桿菌の割合が低い場合や慢性子宮内膜炎の原因菌が多い場合には、妊娠率に影響することが示されています。子宮内フローラ検査はこちらをご覧下さい

検査の結果に応じて、適切な抗生物質の投与、乳酸菌サプリメントやラクトフェリンの摂取などで子宮内環境を改善してから妊娠に臨むことができます。

ERAで「着床の窓」を確認する

良好な受精卵を胚移植しても妊娠しない場合、着床のタイミングのずれが原因のひとつとして考えられます。

ERA(胚受容能検査)は、子宮内膜が胚を受け入れるのに最適な時期(着床の窓)を遺伝子レベルで調べる検査です。通常は排卵から5日後に受精卵は着床しますが、「4日後」や「6日後」にずれている方も一定数いらっしゃいます。

タイミング法では着床の窓に合わせることが難しいため、凍結融解胚移植(体外受精)と組み合わせることで初めて効果を発揮する検査です。「タイミングは合っているはずなのに妊娠しない」という方にとって、ARTへのステップアップが効果的かも知れません。

未実施・再検査の項目を見直す

不妊スクリーニング検査(卵管検査・精液検査・ホルモン検査など)の結果は、時間の経過とともに変化します。前回の検査から時間が経っている場合は再検査を検討する価値もあります。

改めて確認しておきたい主な項目を以下に挙げます。

AMH(抗ミュラー管ホルモン) 

卵巣にどれくらい卵子が残っているかを示す卵巣予備能の指標です。AMHはこちらで解説しています

保険適用で測定でき、値が低い場合は早めのARTへの移行を検討する根拠になります。逆に高すぎる場合(PCOS傾向)は卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクにも注意が必要です。前回の測定から1年以上経過している場合は再検査をお勧めします。

AMHの結果は「いつ・どのような治療を選ぶか」を判断する重要な材料になります。

精液検査 

精液所見は体調・生活習慣などによって変動します。前回から半年以上経過している場合や、生活習慣に変化があった場合は再検査の価値があります。

精液検査はこちらで解説しています

その他のホルモン・栄養素 

甲状腺機能・プロラクチン・ビタミンD亜鉛など、未測定の項目がないか、担当医と一緒に確認しましょう。

「何かやり残したことはないか」という感覚は、とても大切な直感です。一緒に整理していきましょう。

サプリメントの見直し

治療と並行して、妊娠しやすい体づくりをサポートするサプリメントを活用することも大切です。当院でお取り扱いしている主なものをご紹介します。

葉酸 

神経管閉鎖障害の予防として妊娠前からの摂取が推奨されており、妊娠を目指しているすべての方に基本となる栄養素です。食事からの摂取だけでは不足しがちなため、サプリメントでの補充をお勧めします。こちらで解説しています

ビタミンD

ビタミンDの不足は着床率の低下や流産リスクの上昇と関連するとの報告があります。日本人女性はビタミンD不足の方が多く、血中濃度の測定と、必要に応じた補充が推奨されます。ビタミンDについてこちらで詳しく解説しています

レスベラトロール

ブドウの皮などに含まれるポリフェノールの一種です。

抗酸化・抗炎症作用に加え、SIRT1(サーチュイン)と呼ばれる長寿遺伝子を活性化することで、卵子のミトコンドリア機能の維持や加齢による卵子の質の低下を抑える効果が期待されています。

ヒトを対象とした大規模な研究はまだ進行中ですが、特に加齢や卵巣予備能低下が気になる方に注目されているサプリメントです。

ラクトフェリン 

子宮内フローラの改善に役立つとされており、乳酸桿菌(ラクトバチラス属)を増やす効果が期待できます。子宮内フローラ検査で乳酸桿菌の割合が低かった方や、着床障害が疑われる方に特にお勧めです。こちらで解説しています

CoQ10(コエンザイムQ10)

卵子や精子のエネルギー産生を支える抗酸化物質です。加齢とともに体内での産生量が低下するため、特に卵巣予備能が低い方に摂取をお勧めしています。

サプリメントの種類や用量については、現在の治療状況や検査結果に合わせて担当医にご相談ください。当院のサプリメント一覧はこちらからご確認いただけます。

よくある質問(FAQ)

タイミング法から、いつART(体外受精)に進むべきですか?

一般的にタイミング法は5〜6周期を目安にしており、それ以上続けても妊娠率は大きく上がりません。年齢や卵巣予備能(AMH値)、不妊期間なども考慮して判断します。「まだ早いかな」と思っていても、早めにご相談いただくことで選択肢が広がります。

また過去にはタイミング法→人工授精→ARTといういわゆるStepUpが勧められていましたが、人工授精は性交障害を除いてほとんど治療効果がなく効果はきわめて限定的です。

原因不明不妊と言われました。レトロゾールは保険で使えますか?

レトロゾールは多のう胞性卵巣症候群や原因不明不妊に対しては保険適用があります。

ERAや子宮内フローラ検査は、体外受精を始めてから行う検査ですか?

ERAと子宮内フローラ検査は、主にARTので活用される検査です。ただし「着床に問題があるかもしれない」という観点から、ARTへ進む前に知っておくべき情報として参考にすることができます。

AMHが低いと言われました。急いでARTに進んだほうがいいですか?

AMHが低い場合、残りの卵子数が少ない可能性があるため、時間的な余裕が限られていることがあります。一方で、AMHが低くても妊娠・出産されている方はいます。現在の状況を踏まえ、治療のペースについて十分に話し合いましょう。

サプリメントはどれを飲めばいいですか?

すべての方に同じサプリメントが必要なわけではなく、検査結果や治療の段階によって優先度が異なります。例えばビタミンDは血中濃度を測定してから補充を検討するのが理想的ですし、ラクトフェリンは子宮内フローラ検査の結果と組み合わせて考えると効果的です。まずは担当医にご相談のうえ、ご自身の状況に合ったものを選ぶことをお勧めします。

文責 櫻井明弘 院長、日本専門医機構認定産婦人科専門医

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初出:令和2年7月27日
補筆修正:令和3年3月9日
補筆修正:令和4年2月6日
補筆修正:令和4年5月4日、11月1日
補筆修正:令和5年2月13日
補筆修正:令和6年6月3日
補筆修正:令和7年10月22日
補筆修正:令和8年6月25日、26日、27日