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タイミング法の妊娠率

赤ちゃんを考えて受診されるカップルには、不妊スクリーニング検査と平行して、タイミング指導が行われることがほとんどです。

さて、タイミング指導が行われた方はどれくらいの出産率だったでしょうか。

2018年に来院された患者さんのデータを元にまとめてみました。

2018年に1周期以上、タイミング指導を行った後で結果が分かった患者さんは、460名。

1345周期(1人あたり平均2.9周期)を対象としました。

平均年齢は34.2歳で、22〜46歳の方がいらっしゃいました。


結果は、1周期あたりの出産率は5.0%で、流産となってしまった場合を除いています。


では次からは少し詳しく見て行きましょう。

まず最初に年代別の出産率です。

上に述べたように、全体では5.0%の出産率ですが、20代前半では11.8%に上りました。

20代後半が7.1%と続き、30代は4.5-5.7%と平均的ですが、41歳以降の出産率はお一人、1周期のみで、率にすると1.0%でした。

一方でグラフの青の部分が流産となってしまった周期です。

20代前半では流産はありませんでしたが、妊娠したうちの流産となってしまった率(流産率)は、20代後半で26.1%、30代前半で36.6%、30代後半で34.3%で、41歳以降では80.0%にも上りました。

次にタイミング指導を受けた周期別の出産率です。

当然ですが、第1周期の受診者数が最も多く、460周期行われ、第2周期が305周期、、となります。

そして出産率は第1周期から第5周期まで、4〜8%弱でした。第6周期は出産となった方はなく、第7〜9周期に出産した方はいらっしゃいますが、それぞれお一人だけです。

次はタイミング法で出産された方を母数として、累積出産率をお示しします。

2018年、タイミング指導で出産された方は67名いらっしゃいました。460名の方を対象としましたので、14.6%の方が妊娠・出産されています。

その方が指導を受けた、どの周期に妊娠したのかを見るものです。

第1周期で26名、38.8%の方が妊娠、そして出産しています。また第3周期までで74.6%、第5周期までで99.5%とほとんどの方が妊娠に至り、その後はほとんど妊娠される方がなく、第9周期で100%に至ります。

緑の棒グラフで示す、新た妊娠して出産する方は周期を追う毎に減っていくのが分かります。

一つ前のグラフでも書いたように、出産されたほとんどの方は、5周期までに妊娠しています。


最後に不妊原因別の出産率です。

出産率の高いものから並べました。

不妊原因は様々で、この原因別、には2項目以上入っている方もいらっしゃいますし、また全ての患者さんが全ての検査を終えているとは限りません。検査の途中で妊娠したり、来院しなくなったりする方もあるからで、あくまでも診断されている範囲です。

一番左に「原因不明」とありますが、全ての検査が行われ、何も異常がなかった方で、やはり最も出産率が高かったです。何も異常がないのですから、当然かも知れません。

次に意外だったのですが、子宮内膜ポリープを持ってらっしゃる方が出産率が高く流産した方もいませんでした。子宮内膜ポリープは、受精卵が子宮内膜に着床するのを妨げる「着床障害」の原因となります。

そして子宮内膜症、高プロラクチン血症、多のう胞性卵巣、、と続きますが、2.0%まで低下してくると、卵巣因子、男性因子、年齢因子、となります。この場合の卵巣因子は、抗ミュラー管ホルモン(AMH)が1.0以下、またはFSHが7.0以上です。また年齢因子は41歳以上の方です。

やはり卵巣機能が低下したり、精液の所見が思わしくない場合は他の原因に比べても妊娠しづらいことが分かります。

最後に妊娠した方が無かったのは、例数が少ないものの子宮腺筋症、卵管閉塞、そして性交障害でした。卵管がつまっていれば卵子と精子が出会うことがなく、ましてや性交渉がうまく行かない場合も妊娠ができません。

さて、この記事の要点をまとめると、

・タイミング法での周期あたりの出産率は5.0%で、患者さんあたりでは14.6%でした。

・出産率は年齢とともに低下し、流産率は年齢とともに上昇しました。

・タイミング法で出産にいたる方は、5周期までで95.5%に達し、6周期以降はほとんどいませんでした。

・不妊原因別では、卵巣因子、男性因子、年齢因子のある方で出産率が低く、原因不明不妊や子宮内膜ポリープでは高い傾向にありました。


以上より結論として、

・タイミング指導は5周期を目途に妊娠に至らない場合、ステップアップを検討しましょう。

・特に卵巣機能が低下したり、年齢が高い方、ご主人にも原因がある方は早めのステップアップをお勧めします。

文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)

初出:令和2年11月12日
補筆修正:令和3年10月31日
補筆修正:令和4年7月4日