偽閉経療法
子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症は、エストロゲン依存性疾患とされ、エストロゲンが分泌されている年齢に特有の病気です。つまり、月経がある年齢の間に悪化し、閉経後は徐々に病変が小さくなっていきます。
偽閉経療法は、卵巣の活動性を停止させ、ひいてはエストロゲン分泌を低下させる方法です。つまり偽りの、一時的な「閉経」状態を作り出すため、「偽閉経療法」と呼ばれています。
投与法は注射剤と内服薬、点鼻薬があり、当院では主に注射剤と内服薬を用いています。
・注射剤は4週間毎の投与、1回の注射に約4,700円(リュープロレリン)の自己負担があります。価格が高いので、保険がきかないの?と質問されることもありますが、もちろん保険適応になっています。それでも繰り返される薬価の引き下げとジェネリック医薬品の導入により、患者さんの負担は当初と比べると半分以下になっています。リュープリン
・点鼻薬(ブセレリン®︎)は毎日3回、8時間ごとの使用が必要で、月に約3,000円の自己負担です。
点鼻薬は薬のアドヒアランス(受け入れやすさ)と治療効果から、現在点鼻薬を選択する方はほとんどなく、お勧めすることもありません。
平成31年3月、子宮筋腫を保険適応として新薬、内服のGnRHアンタゴニスト(レルゴリクス、レルミナ錠®)が発売され、また令和3年12月に子宮内膜症の適応も取得しました。
GnRHアンタゴニストは、GnRHアゴニストのリュープロレリンと同等の効果がある一方で、治療開始後速やかに効果がみられ、副作用などで服薬を中止すれば、すみやかにホルモン状態が通常に戻るメリットもあります。
特にGnRHアゴニストで大量の不正出血が起こるリスクのある、粘膜下筋腫、子宮腺筋症のある方に向いています。
(令和2年9月、レルミナ錠の添付文書が改定され、粘膜下筋腫が慎重投与とされました。詳しくは上記のリンク先をご覧下さい)
偽閉経療法の副作用のうち、最初の頃にみられるのが不正出血です。
閉経の状態になるはずなのに、出血が? とよくご質問を頂きますが、薬物の投与が開始されて、すぐに閉経時の状態になるわけではありません。2、3ヶ月かけて、ゆっくりと閉経の状態になる、と理解して下さい。
薬物療法を始めるのは、月経が開始して3~5日目。
GnRHアゴニストの当初の出血のパターンはさまざまで、開始時の月経が長引くようなこともあります。
また次の月経が普通に来ることもあります。最も多いのは次の月経が少し早く来る、という状態ですが、月経痛などはほとんどありません。そして2カ月目に入るとほとんど出血はみられなくなります。
メジャーな副作用はここからで、「閉経」の状態になるため、自覚症状として更年期障害症状が見られます。
主な症状は「ほてり」「肩こり」「いらいら」で、他にも「不眠」などありますが、症状の種類や程度は患者さんによって異なります。
レルミナはアゴニストと比べて早期にエストロゲンが低下するため、副作用が早く出る傾向がありますが、副作用はほてり、がほとんどです。
更年期障害様の副作用は強く出る方と軽く出る方と様々です。
うつ症状が出ることもあるため、うつ病、うつ傾向のある方には注意をしています。
GnRHアゴニストを選択した場合、リュープロレリンは主作用、副作用ともに強いため、副作用が心配な方、副作用に悩まされている方にはスプレキュアMP®を投与します。
その他、偽閉経療法の副作用対策はこちらをご覧下さい。
他覚症状として最も重篤とされるのは骨密度の低下、つまり骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。他にも本当の更年期の頃と同様に、脂質異常症(=高コレステロール血症、高脂血症)またまれに高血圧がみられることがあります。太りやすいか、というご質問も頂きますが、理論的には閉経を迎える頃から太りやすくなるため、同じようなことが起こりえますが、実際に治療を受けた患者さんがお困りの様子はありません。こちらも6ヶ月で治療が終わるので、不可逆的に体重が増える、までは行かないのではないでしょうか。
骨密度の低下は、6ヶ月間投与の後、6ヶ月で元に戻る、とされ、これが偽閉経療法の治療期間を6ヶ月間、とし、次の投与まで6ヶ月空けること、とされている根拠です。脂質異常症は投与終了後、エストロゲンの回復とともにすみやかに改善します。
偽閉経療法は排卵を止めるため、治療中に妊娠することはほとんどありませんが、0%ではなく、私も勤務医の頃に1例経験があります。妊娠を望んでいない方は、避妊をきちんと行ってください。
偽閉経療法の一番の特徴はやはりエストロゲンのレベルを極度に低下させることで、偽閉経療法中に内膜症、筋腫、腺筋症が増大することはほとんどないと言って過言ではありません。反対に増大してくる場合には、悪性を疑います。
治療後の排卵機能は、
・レルミナは、早くて2週間後に排卵、1ヶ月後に月経が来ます。ただ、初回の排卵・月経は少し遅れることもあります。
・リュープロレリンは、3〜4ヶ月後に排卵し、その後に月経が始まります。
偽閉経療法の特徴の一つに、逃げ込み療法があります。治療前、卵巣機能が閉経に向かいFSHの値が高くなってきていると、6ヶ月の治療でそのまま閉経、となることを期待する方法です。
次はジエノゲストについて説明します。
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