偽閉経療法は、子宮内膜症や子宮筋腫の薬物療法の中で、最もエストロゲンの分泌レベルを低下させる、最も効果が高い治療法です。

反面、副作用としての更年期障害様症状が見られ、このため治療が継続できなくなる方もあります。

偽閉経療法は、子宮内膜症や子宮筋腫の治療として

・手術前の投与
・薬物療法のみ

の2つの使い方がありますが、前者では3~6ヶ月、後者では6ヶ月の投与が効果的です。

しかし副作用のため、継続できず、せっかく高価な治療を開始したのにもかかわらず、治療効果が十分に現れる前に断念してしまうのは残念です。

そこで我々が行っている、偽閉経療法継続のためのいくつかの工夫をご紹介します。

エストロゲン値.jpg

副作用である更年期障害様症状は、主たる女性ホルモンであるエストロゲンの低下によってもたらされます。したがって、エストロゲンの分泌値を少しでも正常に戻すことが副作用軽減となりますが、正常に近づいてしまっては偽閉経療法になりません。そこでほんの少しだけ、上昇させてあげるのです。
血中エストロゲン値と更年期障害用症状の出現の有無、そして症状の重さは非常に個人差が大きく、一概には言えませんが、上の図に示したように、通常は治療効果が期待できるエストロゲン分泌値のほうが、副作用出現レベルよりも高い、と言われています。

この治療法で副作用が見られた場合、身体に障害をもたらすような重篤なものは当然偽閉経療法の中止をしなければなりません。そこまでではないものの、日常生活に支障をきたす更年期障害様症状が見られた場合は、積極的に副作用対策を行い、せっかく開始した偽閉経療法を途中で中止することのないようにします。

偽閉経療法の工夫.jpg

まず副作用対策には対症療法を行います。
副作用には対症療法が可能なものとそうでないものがありますが、可能なものの代表は鎮痛剤、睡眠剤、時には抗うつ剤や抗不安剤の投与も行います。
頭痛には内服の鎮痛剤、肩凝りには内服、湿布、塗り薬の鎮痛剤が用いられます。
不眠もいくつかのパターンがありますが、偽閉経療法でも多く見られるのが「入眠障害」。寝つきが悪い、と言うものでこれには睡眠導入剤を用います。常習性が無く安全に用いられる「マイスリー」の処方が多いです。寝つきはいいけど、数時間で目が覚めてしまい、その後寝付けない、というのは「中途覚醒」とされ、入眠障害よりも少し長めに効く睡眠剤が適しています。夜間のほてりが強くて目が覚めてしまう、と言う方もあります。
抗うつ剤では即効性が期待できる「ドグマチール」を、抗不安剤では「デパス」が安全です。
よくお話を伺って処方しています。

対症療法の効果が上がらない、または対症療法がないといった場合、もう少し根本的な方法を取らなければなりません。最もよく見られる症状である「ほてり」も対症療法ができないので、ここからの治療を採ります。
副作用対策、上に書いたようにエストロゲンレベルを上げることが近道ですが、治療効果が見られないレベルにまで上げるとせっかくの偽閉経療法が無意味になってしまうので、まずはエストロゲンに影響を与えない漢方療法から始めます。
様々な漢方療法がありますが、偽閉経療法の副作用軽減には「桂枝伏苓丸(けいしぶくりょうがん)」が適しているようです。
桂枝伏苓丸はほてりのみならず、肩凝り、いらいらなどの諸症状に効果が期待できます。

対症療法、漢方療法でも効果が現れない場合に初めてエストロゲンレベルを上げる方法を考慮します。

偽閉経療法には注射剤と点鼻薬の2通りの投与方法がありますが、この中でも注射剤、リュープリンⓇ(リュープロレリン)のエストロゲン低下作用が最も強い、とされています。このため確実な効果を期待してほとんどの方にリュープロレリンを使っていただいてますが、他のスプレキュアMPⓇ、ゾラデックスⓇの製剤に変更するだけでも若干副作用が軽減できます。ゾラデックスはリュープリンと同等のエストロゲン抑制作用、とされていますが、臨床経験からはリュープリンよりも効果が弱いと感じます。その分副作用が軽いです。点鼻薬は全般に注射剤に比べてエストロゲン低下作用が低いので、やはり副作用軽減に適していると思いますが、投与法が面倒なためコンプライアンス(患者さんの受け入れ、適合)の点で劣り、また鼻炎などで薬剤の吸収が劣る方もあります。

次に考慮するのがDraw-backとよばれる方法で、通常注射剤の投与は4週間間隔ですが、エストロゲンレベルが低下してくるのを確認してから、5週間隔、6週間隔、とあけていきます。間隔が開くほど、投与してから次の投与期間まで、エストロゲンレベルが若干回復する期間ができ、副作用軽減になります。やむなく6ヶ月と言う治療期間を超えて偽閉経療法を行わなければならない患者さんで、最長7、8週間隔でも投与可能な方があります。5、6週間隔くらいは大丈夫です。

最後に最も効果的である方法、Add‐back法を紹介します。これは少量のエストロゲン製剤を投与する方法です。完全にエストロゲンレベルが高くなるほど使ってはいけませんが、上にあげた副作用出現域を脱し、治療レベル内にとどめる方法で、我々が良く行うのは合成エストロゲン製剤である「プレマリンⓇ」0.625mg錠を、2日に1錠だけ内服してもらう方法です。簡便に内服でき、効果も実感できます。他にも様々な方法があると思いますが、くれぐれも通常のホルモン治療のように内服しては意味が無いことを念頭に置かなければなりません。

いろいろな方法を紹介しましたが、私は手術も行う立場から、いかに偽閉経療法の中断、断念を無くすか、と言う観点で行ってきました。ご紹介したように、どの方法が良いか、向いているのか、その患者さんが抱えている疾患とその重症度、症状、そして何の目的に偽閉経療法を行っているのかを踏まえて一人ひとりにあった方法を一緒に考えて行きたいと思っています。