現在、定期接種とキャッチアップ接種が行われている、子宮頸がんなどHPVが原因の様々な病気を予防するHPVワクチン。
高1生までの定期接種の接種は進んでいる一方で、11年前の反ワクチン運動の影響で当時接種できなかったキャッチアップ接種は、対象者が接種する、しない、で二極化しています。
「接種した方がいいですか?」「どうしようか迷っています」という方は、必要性と安全性を再度説明すると、ほとんどの方が接種してくれますが、「しない」と言い切る方たち、「打ってはいけない」と思い込んでいる方たちは、考えを変えることはあまりありません。
接種をしない、と言う理由は、ほとんど全員が副反応、副作用を心配してのことです。11年前に接種していたお友達に副反応が見られたり、当時の報道が記憶にあるのでしょう。ほんの少しだけ、「子宮頸がん検診をきちんと受けるのでワクチンは受けない」と言う理由の方もいらっしゃいます。
過去には重い副作用だけが執拗に報道されていました。重い副反応が治らない、という正確な人数把握は難しいのですが、厚生労働省に登録された副反応がみられた患者さんで、症状が残っている人数は、338万人接種に対して、186人でした。
このデータと子宮頸がん罹患率を並べて図を作成し、最近ではこの図を用いてHPVワクチンの必要性と安全性を説明しています。
日本人女性の子宮頸がん罹患率は 1.3%で、76人に一人が子宮頸がんにかかる計算となります。これは、女子校なら2クラスに一人、女性専用車両には2人乗り合わせている頻度です。
また、有名な名古屋スタディ(Suzuki S and Hosono A, 2018)。HPVワクチンの積極的勧奨が中止されたのち、日本国内で実施された大規模スタディです。大変膨大なデータをまとめられているのに失礼ですが、最も重要な要点は以下のとおりです。
名古屋市に在住する、HPVワクチンを接種した、していない女子、3万人の、身体、精神症状を調査しました。
この症状は、頭痛や全身のだるさ・疲れなどの身体の症状、記憶や計算力のような学習症状など、多岐にわたる項目が含まれています。
これらすべての症状の発生率で、接種の有無に関連がなく、ワクチン接種後に見られたのは、副作用ではなく、症状の紛れ込みであった可能性が高い、と、ワクチンの安全性を証明しました。
さて、それでもたとえば、コロナワクチンで大変な副作用、副反応があった方は、HPVワクチンでも同じような副反応があったら、と敬遠したい気持ちもあるでしょう。
当院で最近このHPVワクチンを接種した100名の方に接種後の症状を聞き取りしました。結果を下のグラフに表示します。
直近の100接種では、無症状であった方が3/4を超える76%でした。症状がある、と答えた方の10名は軽い痛みであり、他の頭痛、接種部位の腫れ、内出血・皮下出血、腕のだるさもいずれも軽度で、生活に支障がありませんでした。
緑色のその他8名はいずれも1名だけ答えた症状で、その中でも全身の蕁麻疹が出た方が最も重い副作用だったかもしれません。
ここまで示してきたデータとグラフは、外来でよく用いているもので、なるべくわかりやすく、修正を重ねてきたものです。
一人でも多くの方に、大切な自身の身体を守っていただきたく、繰り返し検討をお願いしているものです。
不安や迷いがあっても当然です。診察室では、皆さんのご質問にいつでもお答えしますので、遠慮なくいらしてください。
「子宮頸がん検診を受けるので、HPVワクチンは打ちません」と言う方に向けた解説はこちらをご覧ください。
YouTube動画「子宮頸がんワクチン、打ってはいけない!?」は、こちらをご覧ください。
☟☟
なお、現在HPVワクチンが限定出荷となっており、予約外や新規に接種を開始する方には接種できません。詳しくはこちらをご覧下さい。
文責 桜井明弘(日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和6年8月13日
補筆修正:令和6年8月14日、26日、9月2日、10月3日、YouTube動画「子宮頸がんワクチン、打ってはいけない!?」とHPVワクチンの限定出荷について追記しました。