キャッチアップ接種世代の患者さんに、HPVワクチンを勧めると、「子宮頸がん検診を受けているので、HPVワクチンは打たなくても良いですか?」と聞かれることがあります。
HPVワクチンの定期接種とキャッチアップ接種が進む中で、HPVワクチンを打たない、と決めている方の理由としては、「副反応・副作用が怖い」に続けてみられています。
きちんと検診受けるんだから、ワクチンを打たずに、仮に子宮頸がんにかかってしまっても、早期発見ができるだろう。一見正しい意見に聞こえますが、そこには大切なことが2つ見落とされています。
確かに子宮頸がんの「予防」と「早期発見」は、HPVワクチンと子宮頸がん検診です。
まずは、子宮頸がん検診の重要性を理解されていることはとても大切ですが、検診はあくまでも病気を早期発見するだけで、子宮頸がんの予防にはなりません。
HPVが最初に引き起こすのは、前がん病変とも言える子宮頸部異形成です。検診をきちんと受けていれば、この異形成の段階で発見できます。
異形成にも段階があり、軽度異形成、中等度異形成、そして高度異形成と進み、その次は上皮内がん、進行がんと進みます。
異形成から癌に進行するまで、5〜10年とされ、この間、場合によっては数ヶ月ごとの、検診ではなく、細胞診や組織診など検査を繰り返し受けなければなりません。この期間は、患者さん皆さん、相当なストレスを感じています。
そして、高度異形成か上皮内がんで発見できれば、子宮頸がんは初期に発見された場合、子宮を摘出せず、子宮頸がんができている部分を、円錐切除、と言う手術法で切り取れば、癌はほとんど完全に摘出できますし、抗がん剤や放射線などの追加治療もなし、そして手術後の再発もほとんどありませんから、命を落とすことは滅多にありません。さらに、子宮の入り口の一部を切り取るだけで妊娠に必要な子宮体部はそのまま残りますので、妊娠もできます。
が、妊娠までの期間(Time-to Pregnancy)が延長する、つまり妊娠しにくくなり、また妊娠後の流産や早産のリスクとなります。子宮を残せた、と手放しで喜べないのです。
HPVワクチンを接種したら90%以上の発癌抑制効果がありますが、残りの10%くらいは、検診で早期発見に努めます。つまり大きな予防効果と、それをすり抜けたら検診で見つける、この2段階で進行がんとなるのを食い止めるのです。
HPVワクチン接種をためらう方たちには、こちらの記事もご覧いただきたく思います。
またYouTube動画「子宮頸がんワクチン、打ってはいけない!?」もアップしています。
文責 桜井明弘(日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和6年8月14日
補筆修正:令和6年9月28日、YouTube動画「子宮頸がんワクチン、打ってはいけない!?」を追記しました。