HPVワクチンを打たない理由として、子宮頸がん検診を受けるから、と言うお話を解説しましたが、11年前までの、8割以上の方がこのHPVワクチンを打っていたころによく出た話題が、HPVワクチンを打つと子宮頸がんにならない、がんにならないので子宮がん検診は一切不要になる、と指導されたり、そう思った方が少なくなかったことです。
確かに子宮頸がんが皆無になるワクチンがあれば理想ですが、理論的な子宮頸がん予防効果は、
2価、4価ワクチンで6割以上
9価ワクチンで9割以上
です。
せっかくワクチンを打ったのに、100%じゃないなんて!、と言う声も聞こえて来そうですが、性感染症である尖圭コンジローマにはじまり、精密検査が繰り返し必要になる前がん病変である異形成から、円錐切除、子宮摘出、妊娠ができなくなる、手術後の合併症、抗がん剤、放射線治療、大切な生命を落とす、まで悲劇的なHPV感染症を、これだけの確率で減らせるのは、とても有効性の高いワクチンです。
また日本では現在、接種率が低いことが問題となっていますが、海外ではすでに集団免疫、つまり男性を含めたほとんどの方がワクチンを接種することにより、そのウイルスを持つ人がいなくなりますから、HPVに感染するリスク自体をグッと減らせることがわかっています。現にスコットランドは子宮頸がんが皆無になったと報道されました。
矛盾するような説明になりますが、それでもワクチンを打ったとしても、HPV感染から子宮頸がんに至るまで、皆無にはならないので、HPVワクチンを打っても2年に1回、我々産婦人科医としてはできれば1年に1回の子宮頸がん検診と、症状に応じていつでも子宮頸がん検査を受けていただきたいのです。
子宮頸がんでは、1次予防、2次予防、と言う説明がなされますが、まずHPVワクチンによって、上に示すような確率で子宮頸がんを防ぎ、すり抜けた感染による癌を早期発見するための子宮頸がん検診を定期的に受けていただきたいのです。
子宮頸がん検診を受けるメリットは子宮頸がんを早期発見するだけではありません。多くの産婦人科のクリニックでは、何か婦人科の症状やトラブル、心配事や相談事がないか聞いてくれたり、追加検査や治療、将来的なアドバイスまで対応できます。ウィメンズヘルスケア、とかトータルヘルスケア、と呼ばれる概念です。
今後は子宮頸がん検診も、細胞診からHPV検査に移行してきます。
そのような激変期でも、皆さまに寄り添い、かかりつけ医としてあり続けたいと思っています。
文責 桜井 明弘(日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和6年8月17日
補筆修正:令和6年9月15日、HPV検診情報のリンクを追記しました。