現在日本国内で行われている子宮がん検診は「子宮頸部細胞診」です。
子宮の出口、子宮頸がんができる部分を主にブラシなどで擦って、得られた細胞を顕微鏡で観察する検査です。
この子宮がん検診が、「細胞診」から、「HPV検査」へと大きく舵を切ろうとしています。
国際的にはすでにHPV検査を最初に行う方法が広まっており、我が国もエビデンスに基づいて「HPV単独検診」へ切り替えられていくものと思われます。
この記事の目次
細胞診で行われる子宮頸がん検診にはどんな特徴がありますか?
- 検診の対象: 20歳以降の女性。年齢に上限はありません。
- 検診の頻度: 定期的に2年ごとの受診が必要です。
- 検診に付随する効果: 検診の機会に他の婦人科疾患の相談や検査ができます。また施設によりますが、当院では基本的に超音波検査も同時に行っているため、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫など、病気の早期発見、治療にもつながり、女性の健康管理全般に寄与しています。
新しいHPV単独検診はどのような子宮頸がん検診ですか?
- HPV単独検診は: 海外でのデータなどを参考にした国立がん研究センターが発表したガイドライン(2020)をもとに、厚生労働省が指針を発表し、精度管理を徹底した自治体での導入が認められましたが、令和6年9月現在、国内で導入した自治体はありません。
- 検査の対象: 30~60歳の女性が、HPV検査のみを行う検診です。
- 検診の頻度: HPV陰性(HPVが検出されない)であれば5年後に再検査、HPV陽性であれば細胞診を追加で実施します。この際、HPVを採取した検体で自動的に細胞診が行われますので、HPV陽性の方が改めて細胞診を行う必要がありません。この細胞診で異常がなければ翌年に再度HPV検査を行います。HPV陽性で細胞診の異常があった場合は、コルポスコピーという精密検査に進みます。
- メリット: 検診頻度が減り、5年に1度の検診で済む可能性があるため、受診率の向上が期待されると厚労省は見込んでいます。実施する自治体からすると、子宮頸がんの浸潤がん(進行したがん)を減らす効果は変わらず、細胞診よりコストがかからないこともメリットになります。
- デメリット: 検診頻度が減ることで、子宮頸がんや、婦人科受診へのの関心が低下する可能性があります。5年に1回なので、反対に検診を受けることを忘れてしまったり、子宮がん検診を軽視する風潮が心配されています。また、他の婦人科疾患に関する相談や検査の機会が減少し、他の婦人科の病気の診断が遅れたり、妊娠の相談などが遅れてしまう懸念があります。
つまり、HPV単独検診は、効率的な検査方法として注目されている一方で、婦人科医療の包括的なケアの観点から課題も指摘されています。
よくあるご質問にお答えします。
なぜ、HPV検査を行うことが子宮頸がん検診になるのですか?
ご存知のように子宮頸がんの原因はHPVと言うウイルスで、現在HPVワクチンを接種する事業が幅広く行われている事はご存知だと思います。
では子宮頸がんの原因がわかっているのであれば、そのHPVを持っているか、つまり感染している状態であるかを検査した方が効率が良いのではないかと言う観点から細胞診とHPV検診、またどちらも行う併用検診を比較した研究が多くされており、海外ではHPV単独検診を採用する国が増えてきています。
30から60歳にHPV検査が行われますが、29歳までと、61歳以上は検診を受ける必要が無い、と言うことですか?
20歳から29歳までは、従来通りの細胞診が行われます。理由は一過性のHPV感染の頻度が高いためです。つまりHPV検査で陽性になりやすいのですが、消失してしまうことが多く、また一方でHPVに感染してからまだ時間が経過していないため、細胞の異常を来しにくいのも理由の一つです。
61歳以上は、再び細胞診を行うか、HPV検査とするか、また検診を受ける年齢の上限も含めてまだ議論が定まっていません。
妊娠中ですが、HPV検査を受けられますか?
もちろん受けることが出来ますが、妊娠中の子宮頸部は出血しやすいため、採取に用いる器具が限定されます。これは医療機関側が選択してくれます。
横浜市では妊娠中の検査への助成として、子宮頸がん検診の無料クーポンが発券されます。こちらは細胞診を行うもので、市からは細胞診を受けるように通知されています。
HPVの検査は痛いのですか?
検査の方法は細胞診と全く同じです。内診で腟鏡を用いて子宮頚部をブラシでこするだけです。不快な違和感がある場合もありますが、ほとんどの方が痛みを感じません。検査後に出血が少量みられる場合があります。
細胞診もHPV検査も、自己採取が行われている場合がありますが、厚労省からの指針ではこれは認められず、医師が採取する精度の高い方法が採用されています。
HPV陰性だった場合に、次の検診まで5年も空けて大丈夫ですか?
この質問は、産婦人科医の中でも心配する声が少なくありません。仮にHPV陰性と診断された直後にHPVに感染してしまったら。。5年後には子宮頸がんになっているのではないか、と言う心配ですが、実際にHPV感染後、発がんまで時間がかかるため、5年空けてもよい、と言うデータに基づいた期間になっています。
もちろん、HPV検査に限らず細胞診でも偽陰性がないとは言えませんので、検診では異常がなくても、不正出血や性交後出血、おりものの異常、下腹痛があれば婦人科受診をして、必要に応じて細胞診を受けたり、超音波検査などを受けましょう。婦人科のがんだけでも子宮体がんや卵巣がんもありますから。
HPVワクチンを接種しましたが、HPV検査を受ける必要がありますか?
せっかく受けたHPVワクチンですから、100%HPVに感染しない、のであれば理想的なのですが、残念ながら、そうではありません。
とは言え、現在接種されている9価ワクチンの場合、7種類の発がん性(高リスク)のHPVが予防できます。
2価、4価ともに、含まれているHPVの型、16、18は、ワクチン接種後ほとんど検出されることはありません。つまり含まれているものに関しては、ほぼ100%と言えるのですが、9価ワクチンを接種しても発がん予防効果は90%くらいです。とは言え、90%予防できるのはすごいことですが、残る10%は、やはり子宮がん検診を受けなければ見逃してしまいます。
HPVワクチンで感染の可能性をぐっと減らし、わずかにすり抜けてくるものを子宮がん検診で見落とさない様にする、と言うのが現在の考え方ですので、HPVワクチンを受けた方でも、性交経験があったら子宮頸がん検診を必ず受けて下さい
現在横浜市ではHPV単独検診を行うべく検討委員会が設置され、私院長の桜井も横浜市産婦人科医会からの代表の1人として、会議に加わっています。公表できる範囲で伸展がありましたらまたアップデートして参りたいと思います。
文責 桜井明弘(日本産科婦人科学会専門医)