当院で行っている生殖補助医療(体外受精など高度生殖医療)では、卵巣刺激法(排卵誘発法)として、多くの方にロング法をお勧めしています。
ロング法が最も妊娠・出産率が高いためで、FSHやHMGなどの注射製剤を使用するため、通院して注射を受けることが可能な方、または自己注射ができる方に選択して頂いています。
ロング法では卵巣刺激(排卵誘発)して採卵する周期、の前の周期(プレトリートメント*)に、排卵後1週間後からGnRHアゴニストである点鼻薬(ブセレリン®/スプレキュア®)をお使い頂きます。これはFSH製剤などによる卵巣刺激で採卵前に排卵してしまわないようにするためです。
採卵前の周期から長い間用いるため、Long法と呼ばれていることなど、高度生殖医療説明動画でもお話しています。
*プレトリートメントは、自然周期で行う以外に40歳以降の方、Cグループの方は注射剤によるカウフマン療法を行います。
皆さまからよくご質問頂く、ロング法の点鼻薬について、またロング法のマイナートラブルなどについてまとめました。
この記事の目次
点鼻薬、使い忘れちゃった!
忘れたことに気付いた時点ですぐに点鼻して下さい。
その後の点鼻薬はもとの時間で再開してください。
プレトリートメントや月経のころより、卵胞が発育して採卵が近くなって来ると、点鼻忘れによって排卵してしまうことがありますので、特に気をつけてくださいね。
点鼻薬はいつまで使うの?
FSHなどで育てた卵胞が十分大きくなると、血液検査を行い、卵胞が成熟していることを確認して採卵が決定しますが、それまで排卵しないように点鼻薬を使っています。採卵前には排卵のコントロール(トリガー)として、採卵の2日前の夕方から夜に、HCG製剤(自己投与可能な「オビドレルⓇ」を含みます)を使用します。このHCG製剤は点鼻薬をきちんと使っていても排卵させることができます。
つまり、点鼻薬を使うのは、HCG製剤を注射するまで、HCG製剤の注射の後は使わなくてよい、ということになります。
もちろん、誤ってHCG製剤の注射の後で点鼻してしまっても、特に悪影響はありませんが、残った点鼻薬は、次の周期以降、胚移植などでも使うことができるため、捨てずにお手元に残しておいて下さい。
点鼻薬、切れてしまわない?
1本の点鼻薬には、14日分(+1〜2日分くらい)の薬剤が入っています。使用日数をカウント、確認し、特に卵胞の発育がみられる頃からは、薬が切れてしまわないか、ご自身でも十分ご注意下さい。
1回分がきちんと出たか確かではないのですが...。
特に点鼻薬が使い終わるころにあるご質問です。点鼻薬の終わりかけでは、きちんと1回分の噴霧ができていない可能性があります。もう一度噴霧し、残りがわずかであれば処方を受けてください。
また、鼻炎がある方は、しっかり鼻をかんでから点鼻薬をお使い下さい。
ロング法で毎日注射をしてますが、おりものが増えて来て、排卵しないか心配です。
自然の周期や内服の排卵誘発剤、注射の排卵誘発剤、いずれの周期でも、排卵前にエストロゲン(エストラジオール)が増えるため、排卵期のおりものが増える症状が出ます。
・自然周期や内服の排卵誘発剤の周期
下垂体からFSHが分泌される
→卵胞が発育
→エストロゲン(エストラジオール)が増え、おりものが増える
→下垂体からLHが分泌される
→排卵
・ロング法
前の周期からGnRHアゴニストを使用するので、下垂体からのLH、FSHの分泌が抑えられている
→注射剤であるFSH、HMGで卵胞を発育させる
→卵胞が発育
→エストロゲン(エストラジオール)が増え、おりものが増える
→GnRHアゴニストを使っているので下垂体からLHが分泌されない=排卵しない
→hCG投与(LHの代わり)を使って排卵させる
→排卵前に採卵
排卵前のおりものは、排卵するから出るのではなく、エストロゲンが増えるから出てくるのです。
ロング法でGnRHアゴニストを使い続ける限り、LHの分泌が抑えられるため、排卵をしてしまうことはありませんが、排卵はしないものの、卵胞発育とともにエストロゲン(エストラジオール)が増えてくると、子宮頸部からの分泌物が増えますが、これがいわゆる排卵期のおりものです。
つまり、GnRHアゴニストの点鼻薬を使っている限り、卵胞が育ち、おりものが増えてきても、排卵をしてしまう、ということはないのです。
大切な採卵周期、心配なことは遠慮なくご質問ください。
生殖補助医療解説動画、「生殖補助医療の実際」保険診療編をアップデートしました。
文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:平成31年1月20日
補筆修正:令和元年5月20日
補筆修正:令和2年3月4日、25日、5月2日、22日、8月24日、9月21日
補筆修正:令和4年3月2日、4月19日、8月5日、30日、10月17日、18日、12月5日
補筆修正:令和6年6月16日、点鼻忘れに追記しました。