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体外受精では排卵誘発剤を必ず使わなければならないの?

生殖補助医療(高度生殖医療)とは、体外受精などの不妊治療を指しますが、多くの場合、排卵誘発剤を用いた卵巣刺激法を行い、採卵を行います。

排卵誘発剤は、一般生殖医療でも、無排卵や、月経不順(排卵日が一定しない)場合にも使われますが、内服薬=弱い刺激(例えばレトロゾール/フェマーラクロミッド)で、注射剤の方が強い刺激になります。

排卵すること、卵胞が発育することは、妊娠するために最低限必要な事で、生殖医療(不妊治療)では、内服薬や注射剤の排卵誘発剤がよく用いられ、これまで長い間、高度生殖医療ではより多くの卵胞を作り、より多くの卵子を得ることが治療を成功ために良いとされて来ました。

現在でももちろん同じように行われてもいますが、少しずつ考え方が変わって来ています。

かつて上に述べたような考え方で卵巣を刺激する方法を、「過排卵刺激」と呼びました。英語ではCOH、Controlled Ovarian Hyperstimulation、より強く刺激するイメージです。

これに用いられたのがhMG製剤。脳にある下垂体から分泌され、卵巣を刺激するFSHとLH(主に前者)というホルモンの効果を併せ持っています。

この製剤を用いる方法もいくつものヴァリエーションがありますが、長所は、より多くの卵胞が発育し、多くの卵子が回収出来ることがあげられ、患者さんによっては数十個の卵胞が発育し、20個を超える卵子が回収できることもあります。

メリットとして、1回の卵巣刺激-採卵で、複数の、より多くの受精卵を得ることが出来ることです。

しかし、この強い刺激方法のデメリットは卵巣過剰刺激症候群が起こる可能性がある問題点です。

卵巣過剰刺激症候群、OHSSと呼ばれるこの病態は、医原性疾患と言って、医療=治療によってできる病気です。

刺激され過ぎた卵巣は大きく腫大し、お腹が張ったり、痛みを感じたり、お腹に腹水が貯まる、血液が濃縮され尿が作られにくくなる、胸に胸水が貯まり呼吸困難、さらには濃縮された血液が固まり、血栓症を引き起こす怖い病態です。

その反省からいくつかの対策が取られるようになりました。一つは全胚凍結、得られた受精卵を全て凍結保存する方法。

もう一つはより低刺激な方法で、現在では卵巣刺激法、COS、Controlled Ovarian stimulation、かつてと異なり、現状ではただ強く刺激すればいいものではないという認識が、生殖医療の中でも広まって来ています。

そこで現在行われている卵巣刺激法の種類を、より軽度のものから挙げると

・自然周期
・レトロゾール/フェマーラ周期
・クロミッド周期
・レトロゾール/フェマーラ/クロミッド+FSH/hMG周期
・ロング法
・(hMG-)アンタゴニスト法
PPOS法
・ショート法

などの方法があります(ロング法、アンタゴニスト法、PPOS法の卵巣刺激の強さは同等です)。

自然周期は排卵誘発剤を使わず、回収される卵子も基本的には1個のため、最も費用が安い方法です。

産婦人科クリニックさくらでは、これまでの治療成績から、どちらかと言えば強い卵巣刺激法であるLong法をお勧めしていますが、「連日通院は出来ない」「自己注射(自分で注射する方法)は出来ない」場合、レトロゾール/フェマーラ内服による刺激で採卵を行うなど、その方に合った方法で治療を行っています。

当院で行なっている生殖補助医療の治療成績と新しい治療戦略を最新データでアップデートして解説したYouTube動画です。


また
保険診療で行う「生殖補助医療の実際」について説明動画です。

文責 櫻井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)

初出:平成30年10月22日
補筆修正:令和4年3月10日、6月4日、8月4日、10月19日
補筆修正:令和5年2月16日、8月5日、11月4日、27日、12月21日
補筆修正:令和6年3月7日、4月9日、12月3日、生殖補助医療の治療成績と新しい治療戦略について解説した動画をアップデートしました。