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「黄体」って何?——妊娠を支えるホルモンを作る組織
生理周期のなかで排卵が起きると、卵胞の殻が変化して「黄体(おうたい)」と呼ばれる組織になります。実際に黄色いことから、この名前がついています。
この黄体が分泌するのが黄体ホルモン(プロゲステロン)。妊娠を成り立たせるために、大切な働きをしています。
子宮内膜をふかふかにする 受精卵が着床しやすいよう、子宮内膜を分厚く・成熟した状態に整えます。
また、体温を上げる作用があり、排卵後に基礎体温が上がり、「高温期」が形成されます。体温表が二相性のグラフになるのは、このホルモンのおかげです。
この黄体ホルモンの分泌が不十分な状態を「黄体機能不全」と呼びます。不妊や流産との関連が指摘されており、気づかないまま見過ごされることも多い病態です。
黄体機能不全の症状——こんなサインに気づいたら
黄体機能不全では、以下のような変化が現れることがあります。
- 排卵後の基礎体温が上がりにくい、または低い
- 高温期が短い(目安として10日未満)。その結果、月経周期が短くなることもあります
- 排卵後から月経までの期間に不正出血がみられる(黄体期出血)
- 受精卵が着床しにくい(不妊症との関連が指摘されています)
- 流産のリスクが高まる可能性がある
プロゲステロンは着床・初期胚発育に重要な役割を果たしていますが、黄体機能不全だけが不妊や流産の直接原因とは言い切れません(米国生殖医学会〔ASRM〕・生殖内分泌不妊学会〔SREI〕, 2021)。
ただし、不正出血や基礎体温の異常などが全くなくても、血液検査でプロゲステロン値が低いと判明するケースがあります。自覚症状だけでは判断できない点が、この病態の難しいところで、不妊症や流産の経験がある方には、黄体機能検査はぜひ受けて頂きたい検査の一つです。

黄体機能の検査方法——いつ・何を調べるか
黄体機能不全の診断では、排卵の約1週間後(黄体中期)に来院していただく必要があります。プロゲステロンは排卵後5〜7日ごろに分泌がピークに達するため、このタイミングが評価に最も適しています(米国生殖医学会〔ASRM〕・生殖内分泌不妊学会〔SREI〕, 2021)。
当院では以下の3つを組み合わせて確認します。
① 基礎体温のチェック 高温相の持続日数・体温差を参考指標として確認します。ただし、基礎体温(BBT)は排卵日の特定精度が低く、単独では黄体機能不全の診断根拠として十分ではないとされており、血液検査による評価が診断の中心となります。
② 経腟超音波 黄体の形成状況や子宮内膜の厚さ・性状を確認します。
③ 血液検査 黄体ホルモン(プロゲステロン)とエストロゲン(E2・エストラジオール)を測定します。プロゲステロン値が診断の中心となり、エストロゲン(E2、エストラジオール)の分泌値や二つのホルモンの比も参考になります。

黄体機能不全の治療——hCG注射・黄体ホルモン補充・排卵誘発
黄体ホルモン値が低いと診断された場合、一般不妊治療として以下の対応を行います。
① 黄体ホルモンの補充 内服薬(デュファストンなど)を用いて、不足しているプロゲステロンを直接補います。なお、プロゲステロン補充は不妊治療介入後のサポートとして有益ですが、自然周期における黄体機能不全そのものに対する有効性は現時点では確立されていません(上記引用元参照)。
② hCG製剤の注射 排卵前後にhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)製剤を注射することで、黄体を刺激してプロゲステロンの分泌を促します。
③ 排卵誘発剤の使用 卵胞の発育を改善することで、排卵後の黄体機能を底上げする効果が期待できます。
体外受精などの生殖補助医療では、黄体機能不全の有無にかかわらず、胚移植の前から黄体ホルモン腟剤で積極的に補充を行うのが標準的です。
なお、子宮内膜症や慢性子宮内膜炎が着床障害を引き起こすことがありますが、黄体ホルモン補充によって改善が期待できると報告されています。

黄体機能不全になりやすい方——年齢・卵巣機能との関係
黄体機能不全は、主に以下の方に多くみられます。
- 若い方(卵巣機能がまだ成熟していない場合)……黄体の形成が不安定になりやすく、年齢とともに自然に改善することもあります
- 加齢により卵巣機能が低下している方
サプリメントや特定の食品で黄体機能不全を改善できるという科学的根拠のある報告は、現時点ではありません。気になる症状がある場合は、自己判断せずに医療機関での検査をお勧めします。

よくあるご質問(FAQ)
基礎体温が二相性でも黄体機能不全のことはありますか?
はい、あります。基礎体温のグラフが一見きれいな二相性でも、血液検査でプロゲステロン値が低いケースがあります。また基礎体温単独では黄体機能不全を「不妊女性と妊孕性正常女性を区別できる信頼できる診断ツールとはみなせない」(Schliep KC et al. 2014)としており、血液検査による評価が不可欠です。
黄体機能不全があると必ず不妊・流産になりますか?
必ずしもそうではありません。上記の引用文献には「プロゲステロンは着床・初期胚発育に重要だが、黄体機能不全が不妊や反復流産の独立した原因であると証明されているわけではない」と明記されています。リスク要因の一つではありますが、断定は難しく、早めに検査・治療の方針を相談することが大切です。
検査はいつ受ければよいですか?
排卵から約1週間後(黄体中期)が最適なタイミングです。基礎体温を記録している方は高温期に入ってから5〜7日前後を目安に来院してください。ご相談いただければ、適切な受診タイミングをご案内します。
黄体ホルモン補充はいつまで続けますか?
一般不妊治療(タイミング法・人工授精)では、妊娠が確認されるまで黄体期に継続するのが基本です。体外受精では、胚移植後から妊娠初期(多くは妊娠10週ころ)まで続けるのが一般的です。
サプリメントで黄体機能不全を改善できますか?
現時点では、特定のサプリメントや食品で黄体機能不全が改善されるという科学的根拠のある報告はありません。葉酸やビタミンDは妊活全般のサポートとして推奨されますが、黄体機能への直接効果は確認されていません。気になることがあればお気軽にご相談ください。
文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:平成30年10月9日
補筆修正:令和2年1月27日、2月17日、6月3日、7月9日、9月23日補筆修正:令和3年9月2日
補筆修正:令和4年7月6日
補筆修正:令和5年4月24日
補筆修正:令和6年5月9日
補筆修正:令和8年3月23日、大幅にリライトしました。
