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子宮筋腫、治療の目安は?

婦人科の病気の中でも、もっともよくある病気の一つが子宮筋腫です。

「筋腫といわれたことがある」方や、ご家族、ご友人に筋腫がある方も少なくないでしょう。

血の繋がったお母さん、お姉さん、おばあさんが筋腫だったので、と心配する方も少なくありません。

子宮筋腫の頻度(有病率)

子宮筋腫、日本での正確な統計はありませんが、一般的に30代で3割の方が子宮筋腫を持っている、と言われるほどです。

海外では白人女性で50%、黒人女性で80%とされており(産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2017、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会)、どの人種でも大変多くみられる病気の一つです。

子宮筋腫が見つかるきっかけ

さて、子宮筋腫は、月経の量が多くなる(過多月経)や不正出血、月経困難症、また頻尿、便秘の原因ともなるため、これらの症状でみつかったりしますが、多くの場合は子宮がん検診生殖医療(不妊治療)のために受診した際に偶然見つかっています。

子宮筋腫と診断されても、すぐに治療や手術が必要ということではありません。

手術・治療が必要なのは、

・現在、治療すべき症状がある

・近い将来、治療が必要となる可能性が高い

場合で、ほとんどの方は治療の必要がありません。

当院の子宮筋腫の患者さん

子宮筋腫治療薬の製造を行っている製薬会社さんで行った講演の際に、当院の子宮筋腫患者さんの現状をまとめてみました。

平成30年9月14日から12月13日までの3ヶ月間、当院に来院された患者さんは3,228人で、そのうち子宮筋腫を持ってらっしゃるのは、547人で、全患者さんのうち16.9%でした。

さらに、この筋腫を持っている方たちの中で、治療の必要がある方の割合をみてみると、、

子宮筋腫治療の適否

左の円グラフ、当院に通院されている患者さんで子宮筋腫を持っている患者さんの中で、治療の必要性がある患者さんは、18%でした。8割の方は、筋腫はあるものの、治療の必要がない筋腫、と言うことになります。

右の棒グラフは、このデータを年齢別にしたものです。治療の必要がある頻度は、40代後半が最も高く、割合にして34%、次に40代前半が28.7%で、30歳以下、56歳以上ではほとんど治療を要する方はいらっしゃいませんでした。

子宮筋腫は月経のある間の病気です。月経が始まってしばらくは治療を必要とする方はいませんが、早い方で20代後半、30代、40代、と治療を要する割合が増え、閉経すると症状がなくなっていくため、50代後半からも治療の必要がなくなる、ということです。

子宮筋腫の症状

治療が必要となる症状を多い順にあげると、

・過多月経と貧血

月経困難症(=生理痛、月経痛)

不妊症

・圧迫症状(頻尿、便秘、腰痛、腹痛、鼠径部痛など)

・腫瘤感

・変性による疼痛

・静脈血栓症

です。

3つの子宮筋腫

子宮筋腫はそのできる部位によって、下の図に示すように主に3つの種類に分けられます。

子宮筋腫
イラストは当院のスタッフが描いてくれました。

最も症状が重く、治療が必要となることが多いのが、①粘膜下筋腫です。

ポイントとなるのは「子宮内膜」です。子宮内膜は月経の時にはがれて出血とともに排出されます。また、妊娠する際には、この子宮内膜に受精卵が着床します。

粘膜下筋腫は子宮内膜を強く圧排するため、月経血の量が増え、貧血になることもあり、また赤ちゃんの欲しい方にとっては、受精卵が着床しない、不妊の原因となりえます。

次に②の筋層内筋腫です。粘膜下筋腫と異なり、子宮筋層の中に出来るものですが、大きくなったり、できている位置によっては、粘膜下筋腫と同様に子宮内膜を圧排するようになり、粘膜下筋腫と同じ症状が出てきます。

筋層内筋腫は治療を必要としないこともあるのですが、さらに症状が出にくいは、③漿膜下筋腫です。上の図にあるように、子宮内膜から離れた位置に出来たものなので、月経のトラブルや不妊にはなりません。しかし、ある程度の大きさになると、子宮の前にできた漿膜下筋腫は膀胱を圧迫して頻尿の原因となったり、子宮の後ろにできた場合は直腸を圧迫して便秘、または背骨を圧迫して腰痛の原因となったりします。足の付け根(鼠径部)に張り出すと、鼠径部の痛みがあることも。
図にあるような「有茎性」の漿膜下筋腫ですが、まれにねじれて痛みの原因となったり、筋腫を栄養する血管が切れて出血したりすることがあるため注意が必要です。

また全体的に大きな子宮筋腫は、静脈血栓症のリスクとなります(Shiota M et al., 2011)。お腹から触れるような大きさが目安です。

子宮筋腫の治療の目安

このように、多くの子宮筋腫の治療の目安は、

・大きさよりも、位置が重要である

・症状がある

・不妊の原因として考えられる

・近い将来に症状を来す可能性がある

ような場合、と言えます。


長い間、子宮筋腫による過多月経があり、貧血になっているものの、鉄剤の治療をしている場合、「症状が無い」と思い込んでらっしゃる方もありますが、子宮筋腫による貧血があるならば、原因である子宮筋腫を治療すべきです。

実際に治療に取り組んだ方は、出血が激減したり、鉄剤を服用する煩わしさから解放されたり、治療効果に満足される方がほとんどです。

月経の量が多いけど、鉄剤を服用すれば治る、ただ、また生理が来れば貧血になり、これを繰り返している。それは治っているわけではありません。平均年齢52歳とされる閉経まで、その治療を繰り返して行きますか?

また、閉経まで手術をせずに済んだ、という場合もありますが、お腹から触れる大きさ(新生児頭大=赤ちゃんの頭の大きさ)では、閉経後に「変性」を来すこともあるため、やはり大きな筋腫は子宮摘出が勧められます。

妊娠を考えている女性の場合、明らかに不妊の原因となりうるもの、他に不妊の原因がないもの、は治療の対象です。

子宮筋腫の治療法

子宮筋腫の薬物療法は、こちらにまとめてありますので、参考にして下さい。

手術療法には、

・子宮全摘出術

・筋腫核出術

があり、それぞれ

・腹腔鏡下手術

・腹式(開腹)手術

があります。上で説明した粘膜下筋腫では、子宮鏡下手術が適応になることも多いです。

これから、将来、妊娠を考える方へ

筋腫の治療は、現在妊娠を希望している方には行うことができません。

薬物療法では、排卵を止めてしまうからです。

手術療法の中には、手術後3ヶ月から長いと12ヶ月避妊をしなければならない場合があります。

そのため妊娠を希望する方には、妊娠を計画する前から治療の方針を相談します。

普段から婦人科検診を受け、妊娠や治療の計画を相談しておく、妊娠を希望する前に筋腫を小さくコントロールすることも、とても重要です。

現在妊娠を希望しているにもかかわらず、手術療法が必要となる場合、術後の避妊期間も考えて、手術前や手術後の避妊期間に高度生殖医療を行い受精卵を凍結する方法もあります。

新型コロナウイルス感染症とコロナワクチンについて心配されている方へ

婦人科のホルモン治療を受けていてコロナ感染をした場合、血栓症に注意する必要がある場合があります

しかし、コロナウイルスワクチンを受けて血栓のリスクが高まることはありませんので、心配せずにワクチンを接種してください。

リンクを貼っていないその他の資料は以下のものを参考にしました。

産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会

文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)

(初出:令和元年5月20日)
(補筆修正:令和元年5月24日、令和2年9月4日、25日)
(補筆修正:令和3年6月26日、10月22日、31日、12月1日)
(補筆修正:令和4年5月20日)
(補筆修正:令和5年1月3日、症状の部分を書き加えました)