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胚移植後(着床期)の注意点 〜過ごし方、生活習慣、食べ物など〜

体外受精などの高度生殖医療では、受精卵を子宮に戻す「胚移植」が行われます。

卵巣刺激から採卵、またそれに先立つプレトリートメントからの、一連の治療の最終段階となり、その後は受精卵が着床し、妊娠判定を待つだけとなります。
これまで以上に胚移植後の過ごし方、生活習慣や仕事などの影響が気になりますよね。

患者さんからよくいただくご質問をまとめてみました。

色々と調べていくと、様々なサイト情報がありますが、きちんとした科学的根拠に基づくものは、ほんのわずかです。

エビデンスがあるもの

安静にした方が良い? 運動は?

米国から2014年に発表された報告では、胚移植後に、加速度センサーを着けて体の動きを調べると、日常生活での動き、運動の強度は妊娠率に影響がありませんでした。

またこの報告では、過去の活動性、運動などは妊娠率を向上させる、としています。

受精卵が着床するまで、じっと動かない方が良い、と思われがちですが、2014年に「胚移植後の安静」の効果は否定されており、当院も含め、最近では胚移植に院内で安静を保つ指導もされなくなってきています。

胚移植の後の日常生活は、通常通りで良い、ということになりますが、普段からの運動習慣が妊娠につながる、と言うことです。

反対に、運動強度が強いと化学流産が増える、という報告がありました(Russo LM et al. 2020)。

過去に流産歴があり、低用量アスピリンの投与を受けている方が対象のため、少し偏りがあるかもしれません。

運動強度が低い方に比べて、中等度では2.06倍、強い方たちでは1.92倍、と、ともに化学流産の確率が上昇した一方で、胎嚢確認後の流産に違いはなかったとのことです。

今後も追加報告を待たなければなりませんが、着床期に運動を控えた方が良いかもしれません。

この報告は、メールマガジン「妊娠しやすいカラダづくり」からの情報でした。

性交渉など

受精卵は子宮の中に戻されており、性交渉は腟内で行われますので、妊娠への影響が無いようにも思われます。

しかし、排卵後5〜9日目の着床期に「性交渉がない」「1回だけ性交渉がある」「2回以上の性交渉がある」グループを比較すると、2回以上のグループで着床率が下がる、という報告(Fertil Steril,2014)があります。

ここから言えるのは、1回までなら大丈夫、2回以上はダメ、ではなく、着床期の性交渉は妊娠率を低下させる可能性がある、と言うことです。

高度生殖医療で胚移植したデータはありませんが、着床期、と言う意味では共通のため、この時期の性交渉はあまりお勧めができません。セックス

採卵周期の注意点はこちらをご覧ください

また自慰行為についてご質問を頂きましたが、以下の項目と同様、根拠を示すデータが全くありませんでした。

エビデンスがないもの

ここでは、エビデンスがない=効果が無い、と言う意味では無く、エビデンスが導き出されるデータに乏しい、データが存在しない、と言う意味になります。

仕事

お仕事の内容にもよりますが、肉体労働などを除き、通常通り続けて頂いて差し支えありません。肉体労働がいけないか、と言う点についても報告がないため、適切なアドバイスができないのですが。。

いずれにしても、この時期、ストレスをためすぎないで、妊娠判定を待ちたいですね。

食べ物

 着床しやすい食べ物

一般に抗酸化物質は、卵質を高め、またビタミンDに代表されるように着床環境を整える効果も報告されています。

抗酸化物質には様々なものがありますが、一般に不妊患者さんの出産率が20%とされているのに対して、抗酸化物質を摂取することにより出産率を26〜43%に高めるとされています(Cochrane, 2017)。

抗酸化物質には、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンB群、上述したビタミンD、アルギニンコエンザイムQ10、ω3-不飽和脂肪酸やメラトニンなどが挙げられています。

まだどの成分も、明らかなエビデンスはなく、流産率を下げる効果も同様に明らかになってはいません。

 食べてはいけないもの

反対に、避けた方が良い食べ物ですが、こちらもエビデンスはありませんが、この時期に氷や冷たいもので身体を冷やしすぎないようにしましょう。

アルコール・カフェイン

体外受精を受けているカップルを対象とした調査では、妊娠前のアルコールは出産率を低下させ(Obstet Gynecol、2011)、また妊娠中は胎児性アルコール症候群の原因となるため、アルコールは避けた方が良いです。しかしながら移植後に限定したアルコールやカフェインのエビデンスはありません。

いずれも摂りすぎはよくない、と言うことです。

入浴

胚移植後に限定した入浴との報告はありません。拙著「あなたが33歳になっても妊娠できない44の理由」でも紹介したように、シャワー浴だけでなく、浴槽に入浴する方が当然、身体が温まりますが、熱い湯船に長時間、というのはNGです。

ちなみにサウナ風呂は精子数が減ります。精子は熱に弱いのです。
しかし、サウナを止めると精子数は回復します。

自動車、自転車の振動

自動車の運転や同乗、自転車の運転など、振動による影響も心配になりますが、実際に妊娠への影響は明らかになってはいません。

妊娠中の自転車運転は、バランスが悪くなり、事故の心配もあるので勧められませんが、胚移植から妊娠判定までは、悪路を長時間走行するなどの極端な乗り方でなければ、制限する必要も無いと思います。

ヨガ

適度な運動と同様、ヨガは血行を良くし、リラクゼーション効果も期待できます。そう言う意味では胚移植後も良さそうに思われますが、ヨガも同様にエビデンスはありません。

ホットヨガは、さらに身体を温め、発汗によりストレス発散できそうですが、ホットヨガによるカラダの温め効果についても、報告がありませんが、上の入浴、にもあるように、温めすぎによるマイナスの効果があるかも知れません。

運動もヨガも、適度ならば良し、と考えますが、ホットヨガのように身体に負担がかかるかも知れないものは、避けた方が良いかも知れません。

ホカロン(使い捨てカイロ)

使い捨てカイロや湯たんぽなどの温活効果は良いと思われますが、これもホットヨガや入浴のように、温めすぎるマイナスの効果はないとは言えません。

子宮や卵巣をポイント的に温めすぎてしまうことがないよう、タオルにくるむ、重ね着の上から使用するなど、工夫が必要かも知れません。


胚移植後は、妊娠判定を迎える日まで、通院の必要も無くなりますが、この判定日までは待つしかなく、気持ちが揺らだりしてしまうかもしれません。日常生活はいつも通り、ストレスをためず、過ごしましょうね。

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当院で行っている生殖補助医療の実際を解説した動画です。

また、当院の生殖補助医療の治療成績と新しい治療戦略をアップデートした動画で解説しています。

初出:令和元年9月14日
補筆修正:令和2年1月18日、23日、2月10日、15日、3月19日、6月4日、28日、7月11日、17日、8月27日、10月16日、11月2日
補筆修正:令和3年2月27日、8月12日、11月7日、12月23日
補筆修正:令和4年3月3日、4月12日、7月8日
補筆修正:令和5年4月25日、12月20日
補筆修正:令和6年6年2月22日、生殖補助医療の治療の実際を解説した動画を追記しました。