授乳中、赤ちゃんの検診や健康管理はとても気を遣うことですし、反面、お母さんの身体の不調は見過ごされがちでしょう。
中でも不正出血がみられたり、いつまでも月経が来なかったり。
そんな症状で初めて産後の婦人科受診をされる方も少なくありません。
授乳と卵巣機能、とても深い関係があり、また様々な症状がみられても不思議がないのです。
授乳には、プロラクチン(PRL)というホルモンの存在が欠かせません。プロラクチンは乳汁分泌ホルモンともよばれています。
プロラクチンが産生されると、卵巣の排卵機能が停止し、月経も来なくなります。
おっぱいをあげているお母さんが、生理が来ない、という理由です。
しかし、やがて離乳食が始まる頃から、授乳量は減り、とともにプロラクチンの産生も減り、早い方は排卵機能が回復し、月経が始まります。この月経は授乳中であれば、妊娠前と異なり不順のこともあります。
排卵はしないものの、卵巣機能が少し回復してエストロゲンを分泌し始めると、少量の不正出血がみられることもあります。
また、しっかりと授乳をしている頃から、排卵機能が回復する方もあります。
反対に、お子さんが2歳や3歳になっても、あるいは5歳くらいになって寝る前に少しだけ乳首を吸わせているくらいでも、まったく排卵しない、という場合もあるのです。
つまり、授乳をしていればお子さんがいくつになっても、無排卵、無月経が続いたり、すこしの不正出血がみられたり、逆に早々に排卵機能が戻り、順調に月経が来ることも、不順であることもある、とてもバリエーションがある不思議な現象です。
中には授乳中に排卵機能が戻り、初回の排卵で妊娠することもあります。この場合、産後に月経が一度もないうちに妊娠されますから、妊娠になかなか気付かない、ということがあります。
授乳中の無月経から月経不順まで、治療はできないことはありません。黄体ホルモンは授乳中でも内服したり、注射したりすることができます。
なかなか月経が来なくて予定が立たないなど、お困りの場合、また不正出血が少量だけど長引いて厄介、というときには黄体ホルモンを使ってもよいと思います。ただ、外来診療で提示してもお使いになる方は少なく、それほどお困りになっている方は多くはないようです。
授乳している方へ
月経のトラブルは様々なので、驚いたり、慌てたりしないで下さい。
ただ、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの病気がないか、婦人科を受診することをお勧めします。
特に子宮がん検診は、妊娠初期に行われて以来、全く受けていない方が少なくありません。卒乳したり授乳中でも6ヶ月を過ぎる頃から乳がん検診も受けましょう。
1年に1回はトラブルがなくてもお受け頂きたいがん検診、ママの健康管理のため、どうぞ受診なさって下さい。
また、子宮内膜症や子宮筋腫など妊娠前に行っていた治療の再開も検討する場合があると思います。授乳中のホルモン治療はこちらにまとめましたので参考にしてください。
授乳中の内膜症治療や月経痛・過多月経 〜使えるホルモン剤、使えないホルモン剤、適切な治療は?〜
なお、現在よく頂くご質問ですが、授乳中でもコロナワクチンを接種することが出来ます。
文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和2年1月7日
補筆修正:令和2年12月24日
〃:令和3年8月26日、12月21日
〃:令和4年1月27日、10月2日
〃:令和6年4月8日、授乳中のホルモン治療についてまとめたリンクを追加しました。