子宮内膜症は、主に月経痛と不妊症、慢性骨盤痛の原因となり、女性のQOLを低下させる病気です。
しかし、多くの患者さんが、妊娠を希望してから、検査や生殖医療(不妊治療)のために受診した際に初めて子宮内膜症が発見されることが多いのが現実です。
結婚や妊娠前から婦人科のかかりつけ医できちんと検診を受け、適切な治療を行っておいて欲しい理由の一つです。
それでは、現在妊娠を考えている方が子宮内膜症にかかっている場合、どうしたらいいのでしょうか。
この記事の目次
子宮内膜症の妊娠・不妊症への影響
子宮内膜症は月経痛、不妊症、慢性骨盤痛の原因となる疾患です。
子宮内膜症患者さんの30~50%が不妊症になり(ASRM, 2012)、正常女性の妊娠率が15~20%に対し、子宮内膜症患者は2~10%に低下します(Hughes EG et al. 1993)。
不妊症の原因として、
・卵巣や卵管周囲の癒着により、排卵された卵子のピックアップ障害を引き起こす
・卵巣機能低下や卵子の質の悪化を招く
・子宮内膜の機能障害により着床しにくい(Boucher A et al. 2022)
・性交痛がみられ、痛みで性交渉ができない
があります。
そのため、子宮内膜症と診断された方には、未婚であったり、まだ赤ちゃんを望んでいないうちから、たとえ月経痛などの症状がなくても、将来の妊娠のため内膜症の治療をすることを勧めています。

不妊症の原因となることについてはこちらで解説していますのでご覧ください。
チョコレートのう胞などの子宮内膜症はどうして不妊の原因になるの? 〜癒着と卵巣機能低下〜
子宮内膜症は主に3つの病態に分類され、それぞれ異なる影響を与えます。
・卵巣チョコレート嚢胞
・子宮腺筋症
・腹腔内の病変や癒着
また、妊娠を希望している方にとって悩ましいことに、内膜症治療の有効な治療法は薬物療法と手術療法ですが、薬物療法は妊活中には行えず、手術療法は卵巣機能が低下することです。
子宮内膜症の診断方法と早期発見の大切さ
子宮内膜症の診断は主に超音波検査で行われます。
血液検査では腫瘍マーカーであるCA125や、悪性(卵巣がん)を否定する目的にHE6やROMA値を測定します。
精密検査としてMRI検査が追加されることもあります。
多くの患者さんは妊娠を希望して不妊治療のために受診した際に初めて発見されることが多いですが、結婚や妊娠前から定期的な婦人科検診を受けることで、早期発見・早期治療が妊娠の可能性を高めるためにとても重要です。

腹腔内の病変や癒着ですが、内診や超音波検査である程度診断できますが、手術でお腹の中を直接観察して診断されることが最終的な診断となります。
卵巣チョコレート嚢胞の治療戦略
卵巣チョコレート嚢胞は、卵巣に子宮内膜症が発生し血液を含んだ袋状の腫瘍が出来るものです。
多くの場合、卵巣と卵管、腹膜や腸、子宮と癒着し、排卵した卵子が卵管に取り込まれにくくなり、またチョコレート嚢胞のある卵巣では慢性炎症により卵巣機能と卵質の低下を招きます。
子宮内膜症は不妊原因となりますが、絶対不妊ではなく妊娠率が低下する病気です。一方でチョコレート嚢胞は妊娠で縮小し、さらに授乳中と、月経が停止している間に治ってくるため、なるべく早く妊娠することを目指します。
しかし小さなチョコレート嚢胞ではそのまま妊娠してもほとんど問題ありませんが、おおむね4cmくらいを超えると、妊娠中のリスクとなるため、妊娠前に手術などの治療をする必要があります。
大きなチョコレート嚢胞を持ったまま妊娠すると、妊娠して大きくなった子宮に押しつぶされて、チョコレート嚢胞が破裂する危険性があり、妊娠中でも緊急手術を行う必要があることもあるのです。

卵巣チョコレート嚢胞の当院の治療方針は、症状やサイズによって異なります。
- 4cm未満:タイミング法や体外受精などの生殖補助医療を行い、早期妊娠を目指します。
- 4cm以上:妊活をお休み出来るなら、6ヶ月間偽閉経療法を行い、チョコレート嚢胞を小さくする方法もあります。手術療法は、卵巣予備能(AMH)を測定し、十分な予備能がある場合、手術を先行し、予備能が低下している場合は、先に生殖補助医療で受精卵を凍結保存し、その後手術を行います。手術後はタイミングから再開しても、凍結した受精卵を胚移植しても良いです。
大きなチョコレート嚢胞がある場合、生殖補助医療で行う採卵が難しかったり、採卵に伴う感染のリスクもありますが、リスク&ベネフィットをよく相談した上で治療方針を考えています。 - 月経痛などの症状が強い場合:チョコレート嚢胞が小さくても、上の4cm以上、に準じて治療したり、手術を先行する場合もあります。
チョコレート嚢胞の手術後に卵巣機能が低下することが知られています。
産婦人科クリニックさくらでは、特に30〜40歳で、術後にAMHが低下することを発表しています(産婦人科の実際、2016)。手術でどれくらい低下するかは一定ではありませんが、低下することは間違いありません。

内膜症で卵巣や卵管などが癒着したために妊娠できない可能性は手術によって改善することが出来ますが、一方でチョコレート嚢胞を摘出することで卵巣機能低下を招くこともあるのです。
手術を行う場合も、なるべく卵巣機能の低下を来さない方法で行って頂くよう、紹介先の施設にお願いしています。
チョコレート嚢胞の手術は卵巣機能低下と再発のリスクがあるため、AMH値を参考に治療戦略を立てることが重要です。
子宮腺筋症と腹腔内病変の治療戦略
子宮腺筋症は現在では子宮内膜症の一つとはされていませんが、病態は子宮内膜症と同じです。
着床障害が主な不妊原因となるため、タイミング法で妊娠に至らない場合は、生殖補助医療で受精卵を凍結保存した後、偽閉経療法で子宮を縮小させてから胚移植を行います。
子宮腺筋症は治療後も数ヶ月で元に戻りやすいため、タイミングよく胚移植を行うことが重要です。
子宮腺筋症の手術もありますが、技術的に難しく、出産時の子宮破裂リスクや再発率が高いため、なかなか標準治療にはなりにくいです。

腹腔内病変や癒着は外来では超音波や卵管検査で癒着が疑われることがありますが、診断の確定は困難で、手術で直接観察して診断されることも多いです。
腹腔内病変や癒着のみが疑われる場合は、タイミング法を試み、妊娠に至らなければ生殖補助医療か手術で癒着剥離を行うか選択します。
子宮内膜症治療の長期戦略
しかし、妊娠を希望してから、検査や生殖医療(不妊治療)のために受診した際に初めて子宮内膜症が発見されることも多いです。
結婚や妊娠前から婦人科のかかりつけ医できちんと検診を受け、適切な治療を行っておいて欲しい理由の一つです。
子宮内膜症は閉経まで続く慢性疾患であり、治療は長期的な視点が必要です。従来のガイドラインではチョコレート嚢胞は最初に手術を推奨していましたが、現在は卵巣機能を考慮した個別化治療が主流になっています。薬物療法と手術療法を組み合わせた治療も行われています。
子宮内膜症合併不妊の治療は、患者の年齢、症状の程度、妊娠希望の有無、卵巣予備能など様々な要素を考慮して個別に計画する必要があります。治療方針は施設によって異なるため、主治医とよく相談することが大切です。

よく頂くご質問にお答えします。
子宮内膜症があっても自然妊娠できますか?
もちろん、子宮内膜症があっても自然妊娠することは可能です。ただし、子宮内膜症患者さんの30~50%が不妊症になると報告されています。また正常女性の妊娠率が15~20%(1回の排卵あたり)に対し、子宮内膜症患者さんでは2~10%に低下します。
子宮内膜症がある場合、妊娠を急いだほうがいいですか?
子宮内膜症は進行する病気であり、年齢とともに卵巣機能が低下することもあるため、妊娠を希望される方はできるだけ早い段階で妊娠を目指すことが望ましいです。
治療の開始時期や方法については主治医とよく相談してください。
チョコレート嚢胞は必ず手術しなければなりませんか?
チョコレート嚢胞は必ずしも手術をしなければならない病気ではありません。

とくにチョコレート嚢胞の手術後は卵巣機能(AMH)が低下することが知られています。
子宮内膜症の不妊治療には大きく分けて以下の選択肢があります:
- 一般不妊治療(タイミング法など)
- 生殖補助医療(体外受精・顕微授精など)
- 手術療法(腹腔鏡下手術による病変除去や癒着剥離)
- 偽閉経療法(一時不妊治療を休んで治療します)
治療法の選択は、年齢、子宮内膜症の程度、不妊期間、卵巣予備能(AMH)などを考慮して慎重に個別に決定され、手術前に受精卵を凍結保存するなど、将来の妊娠を見据えた治療戦略が推奨されます。
卵巣チョコレート嚢胞がある場合、手術と体外受精のどちらを先に行うべきですか?
学会や講演会でもたびたび取り上げられるテーマで、どちらと決められません。これは患者さんの状況によって異なるからです。

主に以下のような基準で判断されることが多いです:
手術が勧められる方:
チョコレート嚢胞に悪性を疑う所見がある
嚢胞が大きい(4cm以上)
AMHが高い
月経痛などの痛みの症状が強い
生殖補助医療が勧められる方:
- 卵巣予備能(AMH)が低下している
- 両側卵巣チョコレート嚢胞の方
手術によって卵巣機能が低下するリスクがあるため、特に30代後半以上では早期に体外受精などの生殖補助医療へステップアップすることが推奨されます。
子宮腺筋症があると妊娠は難しくなりますか?
子宮腺筋症は着床障害や流産のリスクを高めることがあり、妊娠しにくくなる場合があります。ただし、生殖補助医療(体外受精)と偽閉経療法を組み合わせることなどで妊娠の可能性を高めることができます。適切なタイミングと治療戦略が鍵となります。

子宮内膜症の薬物療法は不妊治療中にも続けられますか?
子宮内膜症の薬物療法(低用量ピル、プロゲスチン製剤など)は排卵を抑制するため、妊娠を希望している間は基本的に使用できません。
唯一、黄体ホルモン製剤であるデュファストンは、排卵後に服用することで着床を促したり、月経痛を軽くしたり、チョコレート嚢胞の縮小効果がみられることもあります。
子宮内膜症を治療せずに放置するとどうなりますか?
子宮内膜症は月経のある間は進行する傾向があります。
妊娠はますますしにくくなり、月経痛、慢性骨盤痛、排便痛、性交痛などの諸症状が悪化します。
またチョコレート嚢胞が破裂したり、がん化したりするリスクもあります。そのため、子宮内膜症が発見された際は定期的な受診が必要で、適切な治療を受けて下さい。
ただし、手術をしても再発する可能性があることも理解しておく必要があります。
文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:平成30年12月3日
補筆修正:令和2年2月12日、4月18日、6月12日
補筆修正:令和3年1月16日
補筆修正:令和4年2月5日
補筆修正:令和5年7月27日、12月31日
補筆修正:令和7年5月21日、大幅に書き換えました。

