産婦人科クリニックさくらでは、体外受精などの生殖補助医療が保険適用となってから、初めて採卵を行う方が増えています。
これまで生殖補助医療を行なっている中で、
・患者さんへのアンケートなどで「採卵の痛みについて詳しく教えて欲しい」という声が多いこと
・患者さんの多くが、インターネットなどで事前に多くの情報を収集しており、採卵は「痛い」「激痛」などのイメージや恐怖心を持っている方がとても多いこと
・その一方で採卵後に「思ったより痛くなかった」と話される方が多いこと
・以上の点から、初めて採卵を行う患者さんが、採卵の痛みについて、採卵前後でどのように感じているかを把握し患者さんの心理を理解すること
・これから高度生殖医療を検討している患者さんにこの調査結果を情報提供すること
を目的に、採卵の痛みを調査してきました。
2015年より行った調査は、看護スタッフが以下の学会発表を行いました。
「採卵の疼痛調査 〜採卵前の痛みイメージと採卵後の体感〜」
産婦人科クリニックさくら 矢野まどか他、第150回関東生殖医学会、東京、2016
ここで発表した内容を紹介します。
平成27年2月から8月までで、当院で初めて採卵を行った50人の患者さんにご協力頂きました。
VAS(Visual Analogue Scale、視覚的評価スケール)を用いて、
・採卵前の痛みのイメージ
・採卵後の実際の痛み
を比較しました。
なお、当院では原則的に局所麻酔で採卵を行なっています。
採卵前の痛みのイメージは平均55.7、に対して実際に採卵を行った直後は、平均34.1、と有意に低下しました。
グラフを一本一本ご覧頂くと、右下がり(思ってたより痛くなかった)が多い一方で、右上がり(思ったより痛かった)もみられます。極端な方は採卵前に痛みはMaxだったのに、採卵後「無痛」だった、と答えた方もいらっしゃいました。
その他いくつかの考察を発表しました。主なものは、
・年齢が若いほど、採卵前に想像する痛みは強いが、実際の採卵後の評価では、年齢差はなかった。
若い方ほど採卵も痛いと感じるかと予想したのですが、年齢に関係はありませんでした。
・子宮内膜症の有無は採卵の痛みに影響はなかった。
内膜症の方は、月経痛だけでなく排卵痛も強い傾向にあります。慢性骨盤痛と呼ばれる、月経や排卵と関係のない痛みがある方もいらっしゃいます。中枢性感作からも、採卵に対するイメージも実際の痛みも強いのではないかと予想しましたが、内膜症とは無関係でした。
・卵胞数の少ない患者さんほど実際の痛みは弱かった。
これは当然ですが、採卵数が多いほど時間もかかってしまうため、痛みを感じるのかも知れません。
このように、実際のイメージと痛みを比較し、皆さんがネットなどから得た情報を元に想像している痛みは、実際にはそれほどではないことが多い、と当院では情報提供しています。
当院の生殖補助医療の治療成績と新しい治療戦略を最新のデータを元にアップデートした動画で解説しています。
また保険適用で行なっている生殖補助医療の実際を動画で解説しています。
文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和2年3月29日
補筆修正:令和2年5月6日、8月15日
補筆修正:令和3年1月22日
補筆修正:令和4年10月25日、12月11日
補筆修正:令和5年2月28日、10月31日、12月19日
補筆修正:令和6年6月18日