診察室でときどき患者さんがおっしゃるのに、
「子宮がん検診を一度受けて結果が正常だったので、その後受けていません。もう検診は必要ないと思って」
というのがあります。とてもよくわかります。
しかし、ここで、子宮頸がん発生の流れを簡潔に振り返ってみましょう。
性交渉によりHPV(ヒトパピローマウイルス)に感染
子宮頸部の細胞に一時的な異常(異形成)が生じる
異形成は正常に戻る場合も多いです
HPVが持続感染していると、少しずつ異常が進行し、やがてがんへと進展する可能性がある

検診で異常が見つかっても、細胞診や組織診の後、異常との指摘がなくなり「正常」と診断されることもあります。
しかし、異常が一時的になくなったからといって
「もう大丈夫」
「もう癌にはならない」
「もう検診はいらない」
と考えるのは誤りです。
特に一度でも異形成などの異常があった方は、再度細胞異常が起こるリスクが高いため、定期的な検査が重要です。
今年「正常」と診断されても、来年に異常があらわれることは十分にあり得ます。
またこのような質問もあります。
「検診で正常と診断され、その後性交渉がなければHPVに感染しないので、検診はもう不要ですか?」
というものがありますが、過去のHPVの感染があった場合は、たとえ性交渉がなくてもHPVの持続感染が起こっている可能性があります。つまり、将来的に再び細胞変化が現れるリスクは依然として存在します。

次は、ちょっとおちゃめなものですが、お年寄りの方がおっしゃるのに、
「この歳になったら子宮がん検診はいらないでしょ?」
この歳になったらもう子宮がんになってもいい、とお考えなのか、純粋に年齢的に子宮がんにならないと思われているのか、お話していてもすぐに判断できないことがありますが、75歳までとされている乳がん検診と異なり、子宮頸がん検診は日本では年齢の上限が設けられていません。
今年1月から導入された横浜市の子宮頸がん検診では、HPV検査単独法と言って、これまでの細胞診ではなく、HPVの有無をまず検査するHPV Primaryとなり、30〜60歳が対象です。米国では、すでに、過去に異常を指摘されたことがない場合に限って、65歳以上の検診は推奨しない、とされています。
しかし日本でのHPV検査単独法については厚生労働省から指針が示されたものの、横浜市以外では埼玉県志木市と和光市で導入されたり、導入の検討が始まっておりますが、皆さんがお住まいの自治体で導入されるか、まだ決まっていないところがほとんどです。また、対象外の年齢の方たちにどのような検診をするのか、など、自治体ごとに議論すべき点が山積みです。

さて、この世代の方たちは、確かにそのお歳までがん化しなければ、ハイリスクのHPV感染はないことがほとんどです。しかしHPVにはゆっくりとがん化させるものもあると考えられていますので、ご高齢になってから発症したり、見つかる子宮頚がんもあります。
この歳になって子宮がんが見つかっても手術も出来ないだろうし、そのためにこの命が、まあ大往生です、とお考えでしたら、ちょっと待ってください。子宮頚がん、進行した場合、とてもとても痛い、がん性疼痛が強いです。ですから、万一がんが見つかるとしても、ぜひ進行する前の早期のうちに見つけましょう。子宮頚がん検診、今のところ年齢の上限はありません。子宮がある限り毎年続けるべきですが、日本でも何歳で検診を打ち切るか、検討されています。
文責 櫻井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:平成31年6月10日
補筆修正:令和3年11月26日
補筆修正:令和4年3月3日、10月7日
補筆修正:令和5年7月25日
補筆修正:令和6年1月2日、3月10日、7月19日
補筆修正:令和7年4月10日、7月9日

