時々診察室で受けるご質問に、もう子宮がん検診はやらなくていいですか?というものがあります。
患者さんは主に以下の3つの理由を挙げられます。
まず一番多いのが、「一度子宮がん検診を受けたら結果は正常だったので、その後受けていない」
子宮がんについてはこちらもご覧いただきたいのですが、多くの方は、疑問に思われるでしょう。
子宮頸がんの発生についてもう一度まとめると、
1.性交渉によりHPV(ヒトパピローマウィルス)に感染する
↓
2.HPVが子宮頚部をがん化させる
↓
3.子宮頚がんが発生する
と癌化します。この「2」の段階に要する時間が分からない部分で、今年「異常なし、正常!」の診断を受けても、来年は異常となっている可能性が誰にでもあるのです。似ている誤解に「子宮頚がんの検診で正常、と言われた後、性交渉がなければ(HPVに感染しないので)、子宮頚がんにはならないでしょうか? 検診も不要?」というものもあります。
しかし上の「1」の状態には変わりませんから、いずれ「2」以降に進んでくる可能性はその後の性交渉の有無には関係しません。
次は、子宮がん検診で異常を指摘され、細胞診を繰り返したり、精密検査に当たる組織診を行う、そのうちに異常が見られなくなり、正常の診断になることがあります。このときの医師の説明にもよるのでしょうが、「前は異常、と言われていましたが、その後、正常、と言われたのでもう検査は必要ないと思っていました」と、その後検診を全く受けていない、これも誤解です。上の2から3に至る過程で、前がん病変とも言うべき「異形成」と言う状態になりますが、異形成から必ずがんに進行するとは限らず、正常化することも多いのです。しかし、HPVは持続感染をしている可能性があり、再度細胞の異常が起こってくることはまれではなく、むしろこれまで異常の診断をされたことのない方に比べたら、ずっとリスクは高いと考えるべきでしょう。
最後はちょっとおちゃめなものですが、お年寄りの方が仰るのに、
「この歳になったら子宮がん検診はいらないでしょ?」
この歳になったらもう子宮がんになってもいい、とお考えなのか、純粋に年齢的に子宮がんにならないと思われているのか、お話していてもすぐに判断できないことがありますが、75歳までとされている乳がん検診と異なり、子宮頸がん検診は年齢の上限が設けられていません。
今年1月から導入された横浜市の子宮頸がん検診では、HPV検査単独法と言って、これまでの細胞診ではなく、HPVの有無をまず検査するHPV Primaryとなり、30〜60歳が対象です。米国では、すでに、過去に異常を指摘されたことがない場合に限って、65歳以上の検診は推奨しない、とされています。
しかし日本でのHPV検査単独法については厚生労働省から指針が示されたものの、横浜市以外では埼玉県志木市と和光市で導入されたり、導入の検討が始まっておりますが、皆さんがお住まいの自治体で導入されるか、まだ決まっていないところがほとんどです。また、対象外の年齢の方達にどのような検診をするのか、など、自治体ごとに議論すべき点が山積みです。
さて、この世代の方たちは、確かにそのお歳までがん化しなければ、ハイリスクのHPV感染はないことがほとんどです。しかしHPVにはゆっくりとがん化させるものもあると考えられていますので、ご高齢になってから発症したり、見つかる子宮頚がんもあります。
この歳になって子宮がんが見つかっても手術も出来ないだろうし、そのためにこの命が、まあ大往生です、とお考えでしたら待ってください。子宮頚がん、進行した場合、とてもとても痛い、がん性疼痛が強いです。ですから、万一がんが見つかるとしても、ぜひ進行する前の早期のうちに見つけましょう。子宮頚がん検診、今のところ年齢の上限はありません。子宮がある限り毎年続けるべきですが、日本でも何歳で検診を打ち切るか、検討されています。
文責 櫻井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:平成31年6月10日
補筆修正:令和3年11月26日
補筆修正:令和4年3月3日、10月7日
補筆修正:令和5年7月25日
補筆修正:令和6年1月2日、3月10日、7月19日
補筆修正:令和7年4月10日、HPV検査単独法についてアップデートしました。