生殖医療(不妊治療)では、排卵誘発剤を使うことがあります。
タイミング法などの一般生殖医療では、排卵が出来ない場合や排卵が不規則(=月経不順)、また自然に排卵できていてもエストロゲン(E2)が十分に高くならない場合などに、クロミッドやレトロゾール(フェマーラ®︎)などの内服薬の排卵誘発剤を、また、内服薬の効果が乏しい場合、注射剤の排卵誘発剤を用いることがあります。
また、体外受精など、生殖補助医療(高度生殖医療)では、妊娠・出産率向上や治療の効率化のため、注射による排卵誘発剤をよく用います。
さて、不妊治療で排卵誘発剤を使ったら、一度にたくさん排卵するため、卵子が早くなくなってしまい、閉経が早くなるのでは?と言った質問、よく受けます。ネット上でも当たり前のように書かれていますね。
本当にたくさん排卵すると卵子がなくなってしまうのでしょうか。
(超音波写真は、当該患者さんの許可を得て掲載しています)
これは、月経期間中の卵巣の超音波写真で、黄色い矢印で示している先の黒い袋が、胞状卵胞といって、この月経周期に準備されている卵胞です。
多囊胞性卵巣では左右あわせて数十個みられることもあり、また卵巣機能が低下してくると、1〜2個の場合や、一つも見えない場合もあります。
AMHが高いと胞状卵胞数は多く、AMHが低いと少なくなります。
皆さんが1ヶ月に1個排卵するのは、このうちの一つで、排卵しなかった胞状卵胞は次の周期までになくなり、次の周期ではまた新たな胞状卵胞が準備されます。
排卵誘発剤を使うと、本来、排卵しない2番目以降の卵胞も育てることになり、複数の卵胞が排卵できます。
つまり、排卵誘発剤はもともと排卵せずに消費される卵胞も育てているので、たくさん排卵したからといって、卵胞が過剰に消費されることにはならず、その結果、閉経が早まってしまうと言うことにもならないのです。
生殖補助医療の治療成績と新しい治療戦略を最新データにアップデートして解説した動画はこちらです。
また、生殖補助医療の実際について、保険診療編はこちらの 動画で解説しています。
文責 櫻井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:平成30年11月9日
補筆修正:令和2年1月30日、6月2日
補筆修正:令和4年3月11日、5月25日、10月12日
補筆修正:令和5年2月24日、11月9日、 12月31日
補筆修正:令和6年3月2日、11月28日、生殖補助医療の治療成績と新しい治療戦略についてYouTube動画をアップデートしました。