北九州市の産業医科大学病院で、子宮筋腫の治療を受けていた女性(当時46歳)が、子宮内膜症治療薬の「ジエノゲスト」を処方され、約3か月後に、くも膜下出血を発症して亡くなり、ご遺族が学校法人を相手取って、訴訟を提起しました。
亡くなった患者さん、ご遺族の方には心より哀悼の意を表します。
さて、報道された情報によると、患者さんは多発性子宮筋腫により子宮が大きく腫れた状態で同病院を受診し、女性ホルモンを抑制する薬に続いて「ジエノゲスト」を処方されたそうです。
報道ではどれくらいの子宮筋腫の状態であったのは明らかではありません。
「女性ホルモンを抑制する薬」は偽閉経療法のことで、レルミナやリュープロレリンが用いられたのではないでしょうか。これに引き続いてジエノゲストをジエノゲストSequential法と呼び、多くの子宮内膜症患者さんで実際に行われており、治療効果を実感している患者さんが沢山いらっしゃいます。
ジエノゲストは「子宮内膜症」と「子宮腺筋症に伴う疼痛改善」を効能効果としています。つまり、子宮内膜症や腺筋症がない子宮筋腫は適応とされていません。
またジエノゲストの禁忌、つまり使ってはいけない項目として「高度の子宮腫大」があり、具体的な目安は示されないものの、おおよそジエノゲストの国内第III相試験の除外項目からは、「子宮体部の最大径が10cm(新生児頭大)以上又は子宮筋層最大厚4cm以上の患者」が想定されているかも知れません。
この禁忌項目は、ジエノゲストの副作用である不正性器出血が、出血を多くする可能性のある場所に子宮筋腫があったり、子宮腺筋症があったりする場合に、多量の不正出血となり、輸血が必要になる場合もあるからです。
さて、今回の患者さんが亡くなった原因として「くも膜下出血」とあります。
くも膜下出血は主に脳動脈瘤の破裂、とされています。脳動脈瘤があらかじめある状態で、高血圧や喫煙、多量の飲酒などが引き金となり破裂してしまいます。他にくも膜下出血の原因として脳血管奇形、脳腫瘍、頭部外傷などがあげられます。
報道を読むと、多発性子宮筋腫の患者さん、おそらくは禁忌である高度の子宮腫大だったかもしれません、にジエノゲストを投与して、くも膜下出血で亡くなった、と関連づけられていますが、我々婦人科医としてはジエノゲストが短絡的にくも膜下出血を起こしたものではないと考えます。
繰り返し、亡くなった患者さんには大変お気の毒ではありますが、ジエノゲストはとても多くの患者さんが安全に服用しています。この報道を受けて、過度なご心配をなさらないようにお願い致します。
ご心配な点はいつでも担当医師に相談なさることをお勧め致します。