加齢によって妊娠しにくくなることは、特に女性の問題として広く知られるようになり、現在の日本の生殖医療(不妊治療)だけでなく、社会問題となっています。
一方、最近では「男性の加齢」も問題視されており、「精液所見の低下」や産まれてくるお子さんの「染色体異常」などが注目されています。
令和元年8月1、2日、都内で行われた第37回日本受精着床学会学術講演会に、「40歳を過ぎると精子は劣化する ―SQA-Vを用いた検討―」という演題で、ポスター発表をしました。
当院では精液検査にSperm Quality Analyzer-V(SQA-V)Ⓡという機器を用いています。
当院の不妊カップルを対象に、SQA-Vの結果から、男性の年齢と精子の所見を比較してみました。
対象は、平成25年1月から平成30年10月までに精液検査を実施した1,648名で、年齢は22歳から69歳(平均値35.6±5.4歳、中央値35歳)でした。
検査項目は、精液量と、SQA-VⓇを用いて、精子濃度、精子運動率、高速直進運動精子率を測定しました。
検討項目は、①基準値を満たさない患者さんの割合と、②年代別の各項目の平均値です。
基準値には、WHOの2010年の精液所見の基準値と、SQA-Vの基準値を高速直進運動精子率にもちいました。
結果と解説を以下に示します。
対象となった男性の年齢分布は以下の通りで、
30代前半、後半、40代前半、20代、の順でした。
「精液量」「精子濃度」「精子運動率」「高速直進運動精子率」の所見が基準値以上、基準値未満を示すと、
青が基準値以上、黄色が基準値未満です。
「精液量」、「精子濃度」は基準値以上がとても多い一方で、「運動率」は基準値未満が増え、特に「高速運動精子率」では過半数が基準値未満と言う結果でした。
次に基準値未満、基準値以上の平均年齢を示します。
「精液量」「精子運動率」「高速直進運動精子率」は、基準値未満の方が年齢が高かったです。
そして、最後に各項目の年代別の平均値を示します。
「精液量」「精子濃度」「精子運動率」「高速直進運動精子率」別に20代、30代前半、後半、40代前半、40代後半以上の平均値を表しました。
「精液量」「精子運動率」「高速直進運動精子率」は年齢とともに減少し、特に「精子運動率」「高速直進運動精子率」は30代後半と40代前半で差が明らかに見られました。
反対に「精子濃度」は年齢とともに上昇します。だんだん濃くなる、と言う意味ですが、精液量が減ることからも、精子以外の液体の部分(精漿)が、少なくなると解釈できます。
当院で最も重視しているのは「高速直進運動精子率」です。
もちろん最も高いのは20代ですが、40代から減少します。
一般的に解釈すれば、女性だけでなく、男性も妊娠に取り組む「年齢」を意識すべきだと思います。
不妊スクリーニング検査には多くの検査項目がありますが、中でも精液検査は早めに取り組むべきです。
精液所見の改善には有効性が高いものがなく、時間がかかるためです。
検査を受けるかどうかも含めた相談も、いつでも承っております。
文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
初出:令和元年8月20日
補筆修正:令和2年3月12日、5月11日、6月13日