最新のお知らせ

つわりの治療と予防

つわり(悪阻)、妊娠をすると多かれ少なかれ、みられる妊娠初期の症状です。

つわりの症状、程度は様々で、なんとなく胃がむかむかする、以前より食欲がなくなった、といった軽度のもの、また朝、気分が悪い、反対に夕方や夜など、疲れてくると吐き気がしたり。

臭いにも敏感になったり、極端に偏食になったり、さらに重症と診断する一つの目安は、水分をとっても吐き気がする、つまり食物はおろか、水分すら受け付けない状態で、そのままでいると脱水を引き起こしかねません。またビタミンB1不足から起こるウェルニッケ脳症と呼ばれる脳症まで、多くの症状がみられ、それは妊婦さんによっても異なりますが、同じ妊婦さんでも妊娠するたびに異なります。

つわりに限らず、脱水は暑い夏に続いて乾燥する冬にも起こります。今はコロナの影響でマスクを着けるため、乾燥・脱水に気づきにくいようです。

では、実際につわりの症状がみられたら、どのように対処したらよいでしょうか。

まずは、無理しないように、食事や水分を少量でかまわないので、頻回に摂ってみましょう

つわりにみられる吐き気の緩和には、ビタミンB6(ピリドキシン)の内服が有効(Vutyavanich T et al. 1995)な場合があります。内服治療は治療開始が早いほど効果が期待されますが、つわりが重くなってしまえば、薬を内服することすら、できなくなってしまいます。

また欧米では生姜の摂取(McParlin C et al. 2016など)が広く推奨されているようです。私も身内に同様の経験があり、大変興味深いです。

吐き気や嘔吐で日常生活が著しく制限されてしまう場合や、上記の治療法でつわりが改善しなければ、制吐剤を使います。この場合、プリンペランが最も安全性が高い(ACOG Practice Bulletin. 2018など)です。

それでも脱水が起こってしまったら。。 

酷暑や乾燥が続くと、脱水や熱中症のリスクとなりますが、つわりのある妊婦さんにとってはさらなるリスクとなります。

脱水の予防のためには水分を摂取することですが、この際、水やお茶ばかりではなく、経口補水液のように少し塩分が入っているものを摂ることをお勧めします。

脱水は最初に尿量が減ります。トイレに行く回数が減った、トイレに行っても少ししか尿が出ない、尿の色が濃くなった、という症状も、脱水が疑われます。また医療機関で尿検査をすると、脱水によって尿中のケトン体が増えます。このような場合、点滴による十分な輸液が必要です。また5%以上、体重が減ってしまって食事も水分も摂れない場合にも輸液が必要です。まれではありますが、点滴をしてもさらに体重が減り続けてしまう場合には、入院した上で中心静脈栄養を行わなければなりません。

点滴が必要な場合は、食事がほとんど摂れないため、ビタミンB1(チアミン)を点滴に入れて、ウェルニッケ脳症を予防しなければなりません。

さらに点滴を要する脱水の場合には、血管内の脱水もあるため、深部静脈血栓に注意しなければなりません。

では、つわりを予防する方法はないのでしょうか。

これには、マルチビタミンミネラル(ビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、D、E、葉酸、ミネラルを含有)が有効とされ、米国産婦人科学会では妊娠3ヶ月前からの摂取を推奨しています。当院でも同様のサプリメントを扱っています

日本では胎児の中枢神経異常予防のために葉酸の摂取のみ推奨されているのと比べ、妊婦さんのヘルスケアも重視していますね。

また、妊娠16週を越えてもつわりが長引く場合や、16週以降に出てくる場合は、他の病気によるつわり症状を疑います。甲状腺機能低下症は流産の原因にもなりますが、つわり症状を重くします。またつわりと思っていたら胃の病気であることも。妊娠中でも胃カメラで胃の病変を検索する必要があります。さらに、精神疾患を持っている場合にもつわりがひどくなることがあり、精神科や診療内科での診断や治療を要することもあります。

つわりの他、妊娠初期のマイナートラブルはこちらもご参考になさってください。

参考文献:産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会

文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)

初出:令和2年6月4日
補筆修正:令和2年8月18日、12月5日、7日
補筆修正:令和3年5月4日
補筆修正:令和4年2月19日
補筆修正:令和5年3月24日