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アシステッドハッチングに関する報告
アシステッドハッチングの妊娠率、出産率に対する効果は、「有り」とする論文、施設と、「無し」とされる場合が有り未だに定見がありません。
日本生殖医学会による「生殖医療ガイドライン(2022)」では、
・妊娠率が向上する報告もあり、現時点では症例に応じて施行が許容される。
・多胎妊娠が増加する可能性を否定できない。
とされており、これを踏まえて令和4年4月の生殖補助医療保険適用化では、さまざまな治療や手技の中で、アシステッドハッチングは保険適用されました。
海外のガイドラインでは、有用性が示されていないため推奨しないものが多く、米国不妊学会(ASRM)は2014年にアシステッドハッチングのガイドラインを発表し、
・研究が少ないため現段階では出産率を改善する十分な根拠がない(Level C)
・これまでの治療で思わしくなかった場合には臨床妊娠率の改善につながる(Level A)
・出産率と多胎妊娠リスクの上昇のため、思わしくない治療結果の患者さんに推奨するには機が熟していない
ことから、
・全ての患者さんに行うべきではない(Level C)
と勧告しています。
しかし、Meta-analysisの報告では、特に反復不成功の場合を中心に妊娠率の上昇が認められるものが多く、国内のガイドラインでは上記のように結論づけられました。
産婦人科クリニックさくらのアシステッドハッチング成績
産婦人科クリニックさくらでは過去に、初回の良好胚盤胞の胚移植で、アシステッドハッチングを選択した方としなかった方の妊娠率を比較してみました。
それぞれの患者さん、受精卵の背景因子には、平均年齢をはじめ、差はほとんどみられませんが、選択しなかった方の方がBMIが低い傾向がありました。
上段がアシステッドハッチングを行わなかった場合で、下段がアシステッドハッチングを行った場合です。
色分けは左から、青は着床せず、赤は着床したものの化学流産、黄緑が胎嚢が確認された後、児心拍(赤ちゃんの心臓の動き)が見えてこなかった枯死卵、紫が児心拍確認後に停止してしまった稽留流産で、水色が出産に至っています。
妊娠率(着床率)、と言うと赤から水色まで
臨床妊娠率は紫と水色
出産率が水色です。
このようにアシステッドハッチングを行った方がわずかに妊娠率が高く、出産率も高いです。
しかし、5日目に行う胚盤胞移植だけの成績を比較すると、
アシステッドハッチングを行った方が妊娠率は8割近くとなり、また出産率も58％と、アシステッドハッチングを行わなかった場合よりも大変高くなっていることが分かりました。
また2、3日目に行う分割期胚移植では、
初回の良好分割期胚では行わず、不良胚は全例アシステッドハッチングを行って来ましたが、アシステッドハッチングを行なった不良胚と行わない良好胚の治療成績がほとんど変わりませんでした。
なお、上に挙げた報告の中に、「一卵性双胎のリスクを、自然妊娠の2.25倍に高める」や「多胎妊娠リスクの上昇」とあるのは、アシステッドハッチングにより、一つの受精卵を胚移植し一卵性双胎となるという意味です。
当院の一卵性双胎発症率は、アシステッドハッチング無しは0％で、アシステッドハッチング有りは、全てのアシステッドハッチング例で、766例中5例(うち1例はアシステッドハッチングが原因か不明)、0.65％でした。
産婦人科クリニックさくらのアシステッドハッチングの方針
以上の成績を踏まえて、令和4年12月から、
「分割期、胚盤胞移植ともに、基本的にアシステッドハッチングを行います」
胚盤胞でハッチングしてきているステージ5、6ではアシステッドハッチングが必要ありません。
アシステッドハッチングは、わずかながら多胎妊娠が増えるリスクと、受精卵を傷つけてしまう可能性があるものの、上記の成績を踏まえ、アシステッドハッチングは妊娠・出産率向上に寄与する、と判断しています。
ご質問のある方は、診察室でおたずねください。
保険診療で行う生殖補助医療の実際を解説した動画はこちらをご覧ください。
生殖補助医療の治療成績と 新しい治療戦略を 最新のデータをもとに動画で解説し アップデートしました。
文責 桜井明弘(院長、日本産科婦人科学会専門医)
(初出：平成30年5月2日)
(補筆修正：平成30年5月7日)
(補筆修正：令和2年1月30日、3月17日)
(補筆修正：令和3年3月31日、10月18日)
(補筆修正：令和4年2月16日、12月8日、13日)
(補筆修正：令和5年3月5日、8月18日、10月24日、11月18日、12月16日、 生殖補助医療の治療成績と新しい治療戦略を解説した動画をアップデートしました)