卵子凍結(未受精卵凍結保存)は、卵子の質がより良いうちに、将来の妊娠に備えて凍結保存しておく医療技術です。
もともとは抗がん剤治療などによって妊娠する力(妊孕性)が損なわれることが予想される方のために行われてきましたが、近年では、様々な事情から「今はまだ妊娠を考えられないけれど、将来的には子どもを授かりたい」と考える健康な女性からのご相談も増えています。
この記事では、当院で卵子凍結をご検討いただく際に実際にご説明している内容をもとに、方法・安全性・費用について、産婦人科専門医の立場からわかりやすく解説します。

この記事の目次
卵子凍結とは? ― 医学的適応と社会的適応
卵子凍結とは、体外受精などの生殖補助医療で用いられている卵巣刺激(排卵誘発)・採卵術・凍結技術を応用し、精子と受精させる前の「未受精卵」の状態で凍結保存しておく治療です。対象となる方は、大きく次の2つに分けられます。
- 医学的適応:手術や抗がん剤治療などにより、将来妊娠する力(妊孕性)が損なわれることが予想される場合
- 社会的適応:様々な理由により妊娠を今すぐには計画できないものの、将来的には希望している場合。年齢とともに卵子は数・質ともに減っていくため、今のうちに卵子を保管しておく選択肢です
いずれの場合も成人女性が対象で、健康保険は適用されない自費診療となります(費用については後半で詳しく解説します)。
卵子凍結までの流れ
実際に卵子を凍結するまでには、次のようなステップを踏みます。
- 採卵前検査・AMH測定
卵巣刺激や採卵を安全に行うための術前検査に加え、卵巣にどのくらい卵子が残っているかの目安となる抗ミュラー管ホルモン(AMH)を測定し、お一人おひとりに合った卵巣刺激法をご提案します。AMHについて詳しくはこちらの記事もご覧ください。 - 卵巣刺激
排卵誘発剤を使用し、複数の卵子を同時に育てます。注射で行う卵巣刺激の期間は個人差が大きく、4日〜20日程度(平均9日)と幅があるため、この間は自己注射、または連日の通院での注射が必要です。 - 採卵日の決定
超音波検査と採血によるホルモン検査で卵子の成熟度を確認しながら採卵日を決めるため、ご希望のスケジュールを優先できないことが多い点は、あらかじめご了承ください。 - 採卵術
採卵は朝9時前後に行われます。この時間帯は変更できません。
採卵術当日について
採卵術では、痛みを抑えるための坐薬(鎮痛剤)と局所麻酔を使用します。痛みの感じ方には個人差があり、まったく痛みを感じない方から強く感じる方までさまざまですが、痛みのために採卵ができないというケースはほとんどありません。使用する薬剤にアレルギーがある方は、事前に必ずお申し出ください。
採卵前には腟内を消毒し、超音波で血管や腸管の位置を確認しながら針を進めますが、ごくまれに感染や血管の損傷、腸管穿刺などが起こる可能性があります。また、採卵当日にすでに排卵してしまっていたり、卵巣の位置によっては採卵ができない場合もあります。すべての卵胞から卵子が回収できるとは限らず、卵子は非常に小さいため、ごくまれに(0.1%未満)紛失してしまうこともあります。
採卵から数日後には、採卵後の診察にご来院いただきます。生殖補助医療全体での採卵の流れについては、こちらもあわせてご覧ください。
安全性と有効性の限界
どのような治療にも、あらかじめ知っておいていただきたいリスクと限界があります。
安全性について
卵巣刺激や採卵術には、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や、注射による神経障害といった合併症のリスクがあります。また採卵の際には、感染や出血、子宮・膀胱・腸管・血管などの周辺臓器を傷つけてしまうリスクも、頻度は高くないもののゼロではありません。
有効性について
卵子凍結の有効性については、まだ十分な知見が蓄積されているとは言えず、限界があることもお伝えしておかなければなりません。たとえば、将来自然に妊娠することができ、結局は凍結した卵子を使わないという可能性もあります。また、受精卵を融解する際には約4%が変性してしまうことが知られていますが、未受精卵(卵子)の凍結・融解技術は受精卵ほど確立されているとは言えず、変性の割合はこれを上回る可能性があります。これらは、今後の技術の進歩によって改善が期待される部分でもあります。
妊娠に必要な卵子数の目安
「妊娠のためには卵子がいくつ必要か」について、まだはっきりとしたデータはありません。参考として、海外の研究データをもとにした、年齢別・採取個数別の出産率の目安を示します。あくまで一つの目安としてご覧ください。
| 採卵時年齢 | 10個 | 20個 | 30個 | 40個 |
|---|---|---|---|---|
| 32歳 | 65.5% | 88.1% | 95.9% | 98.6% |
| 38歳 | 51.1% | 76.1% | 88.3% | 94.3% |
| 42歳 | 42% | 66.3% | 80.5% | 88.7% |

保管期間・費用と助成制度
保管期間と更新手続き
採卵術で得られた卵子は、その日のうちに凍結保存されます。以後は1年ごとに更新の手続きが必要です。更新手続きが行われなかった場合や、連絡が取れなくなった場合には、当院の判断でやむを得ず廃棄することがあります。
日本生殖医学会のガイドラインでは、凍結した卵子の使用は45歳未満での実施が推奨されていますが※1、当院ではこれまでの治療実績をふまえ、保管期限を46歳の誕生日前日までとしています。また、ご本人が亡くなられた場合には保管を中止いたします。
保管の限界について
地震や火災などの不測の事態により、お預かりしている卵子の保管状況に影響が及ぶ可能性もゼロではありません。また、やむを得ず当院での管理が困難となった場合には、患者さんにご相談のうえ、責任を持って他の医療機関へ移送いたします。
同意について
卵巣刺激から採卵までの間に万一の判断が必要となった場合に備え、ご本人に加えて血縁の方の同意署名をお願いしています。
費用について
卵子凍結は健康保険が適用されない自費診療です。将来、凍結した卵子を融解して受精・胚移植を行う際の費用も、現時点ではすべて自費診療となります(自費診療料金の全体はこちら)。
| 項目 | 費用(税込) |
|---|---|
| 初回(採卵前検査・ホルモン検査・超音波検査・薬剤費を含む) | 174,460円 |
| 2回目以降(同上・採卵前検査が不要) | 154,770円 |
| 採卵時(凍結卵子5個以下) | 112,640円 |
| 採卵時(凍結卵子6個以上) | 178,640円 |
| 凍結卵子の年間管理更新費用(個数によらず) | 44,000円 |
助成制度について
神奈川県・横浜市にお住まいの場合、がん治療などに伴う医学的適応での卵子凍結については、神奈川県の「妊孕性温存治療費助成」や、横浜市の「若年がん患者等妊よう性温存治療に関する助成」(凍結保存の更新料も対象)を利用できる場合があります※2。
一方、健康な方が将来に備えて行う社会的適応の卵子凍結については、2026年8月現在、神奈川県・横浜市に公的な助成制度はありません(東京都にお住まいの方向けには、卵子凍結費用に対する別の助成制度があります)。お住まいの自治体の最新の助成情報は、各自治体の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
Q1. 卵子凍結は健康保険が使えますか?
いいえ、卵子凍結(採卵前検査から凍結保存まで)はすべて自費診療です。将来、凍結した卵子を融解して受精・胚移植を行う際の費用も、現時点では自費診療となります。
Q2. 神奈川県や横浜市に住んでいますが、助成金は使えますか?
がん治療などによる医学的適応の場合は、神奈川県や横浜市の妊孕性温存治療費助成の対象になることがあります。一方、社会的適応(将来に備えた卵子凍結)については、2026年8月時点で神奈川県・横浜市に公的な助成制度はありません。東京都にお住まいの方向けの助成制度とは条件が異なりますので、ご注意ください。
Q3. 卵子はいつまで保管・使用できますか?
日本生殖医学会のガイドラインでは、凍結した卵子の使用は45歳未満が推奨されています。当院ではこれまでの治療実績をふまえ、保管期限を46歳の誕生日前日までとしています。保管には1年ごとの更新手続きが必要です。
Q4. 採卵は痛いですか?
坐薬の鎮痛剤と局所麻酔を使用します。痛みの感じ方には個人差がありますが、痛みのために採卵ができないというケースはほとんどありません。使用する薬剤にアレルギーがある方は、事前にお申し出ください。採卵の痛みについてこちらも参考にしてください。
Q5. 凍結した卵子で将来必ず妊娠できますか?
残念ながら、そのような保証はありません。卵子凍結の有効性についてはまだデータが十分ではなく、将来自然に妊娠する可能性もありますし、融解後の技術的な限界もあります。メリット・デメリットを十分にご理解いただいたうえで、ご自身に合った選択かどうかをご検討いただくことをお勧めします。
卵子凍結は、将来の可能性を広げる選択肢の一つですが、決して万能なものではありません。ご自身の年齢やライフプラン、身体の状態によって最適な判断は異なりますので、気になる方はお一人で悩まず、一度診察でご相談ください。
文責:櫻井明弘 院長、日本専門医機構認定産婦人科専門医
※1 一般社団法人日本生殖医学会 倫理委員会報告「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」(2013年11月15日)
※2 神奈川県「妊孕性(にんようせい)温存治療・温存後生殖補助医療について」、横浜市「若年がん患者等妊よう性温存治療に関する助成」
初出:令和8年8月21日
補筆修正:令和8年8月22日
