2025年11月、オーストラリアの研究機関C4(NHMRC Centre of Research Excellence in Cervical Cancer Control)の発表(Smith M et al. 2025)が、世界中の大きな注目を集めています。
「2021年、25歳未満の女性における子宮頸がんの新規診断件数がゼロとなった」
これは、データが記録されている1982年以来、初めての出来事で、「ゼロ」ということに、私たちは産婦人科医師としてとても驚いています。

この成果は2007年に開始された世界初の国家的HPVワクチン接種プログラムの成果によるものと評価しています。
今回は、オーストラリアの取り組みから何を学べるか——そして日本における子宮頸がん予防の現在地について、わかりやすく解説します。
この記事の目次
オーストラリアが達成した「歴史的ゼロ」
オーストラリアは以下のように段階的にプログラムを整備してきました。
- 2007年:女子を対象とした学校ベースのHPVワクチン接種プログラムを世界で初めて国家レベルで開始
- 2013年:男子にも接種プログラムを拡大
- 2018年:4価ワクチンから9価ワクチンへ切り替え
- 2023年:2回接種から1回接種へ変更、キャッチアップ対象を25歳未満まで拡大
この「先行投資の積み重ね」が、20年近い時間をかけて実を結びました。
HPVワクチンが数字で示したこと
豪州における全体の子宮頸がん発生率も、2021年に人口10万人あたり6.3件(前年6.6件)と低下傾向にあります。また、HPV16/18の陽性率は2024年時点でわずか1.4%と非常に低い水準となっており、国家的ワクチン接種プログラムの継続的な効果を示しています。
さらに前がん病変(高度異形成)の検出率も2019年比で21%低下しており、「がんになる手前」での抑制効果も明らかです。
WHOは子宮頸がん撲滅の目標として人口10万人あたり4件未満を掲げており、豪州は早ければ2028年にこの基準を達成できると世界初の国となることが見込まれています。
一方でワクチン接種率の低下も
報告には重要なことが指摘されています。
HPVワクチン接種率は、
2020年のピーク時85.7%(女子86.6%・男子84.9%)から、
2024年には79.5%(女子81.1%・男子77.9%)
へと低下しています。
報告書はこの低下を「緊急に対処が必要な問題」と位置づけ、接種率低下の背景として学校での接種プログラムの課題、電子的な同意取得の困難さ、ワクチン全般への信頼低下などを挙げています。
また、先住民族(アボリジナル・トレス海峡諸島民)や遠隔地居住者では接種率・検診率ともに格差が残っており、報告では「公平性の確保」を最重要課題として強調しています。

日本との比較——私たちの現在地
日本のHPVワクチンをめぐる状況は、豪州と大きく異なります。
日本では2013年に積極的勧奨が停止され、約9年間にわたって「接種を勧めない期間」が続きました。
2022年に積極的勧奨が再開され、今年度からは9価ワクチンのみの定期接種へ移行しましたが、接種率の回復にはまだ時間がかかっています。
昨年度末2月の接種率は、定期接種世代で28.9%、定期接種最終学年の高1生で53.0%、17〜28歳のキャッチアップ世代で58.6%にとどまっています(ワクチンJAPAN)。
豪州が2007年から接種を積み上げてきた18年間の間、日本では多くの女性が接種の機会を逃しました。キャッチアップ接種(1997〜2008年度生まれの女性を対象とした無料接種)も先月、3月で終了してしまいました。
豪州がキャッチアップ接種を続けているのであれば、これもわが国も見習うべきかも知れません。
当院では、HPVワクチンの接種に積極的に取り組んでいます。接種を迷っている方、お子さんへの接種を検討されている保護者の方は、ぜひご相談ください。
子宮頸がん予防に大切な「2本柱」
HPVワクチンと子宮頸がん検診は、どちらか一方では不十分で、両方を組み合わせることが重要です。
ワクチンで防げるHPVは約90%ですが、すべてではありません。また、ワクチン接種前にすでにHPVに感染している可能性もあります。定期的な子宮頸がん検診(細胞診・HPV検査)によって、万一の異常を早期に発見することが、命を守るうえで不可欠です。
| HPVワクチン | 子宮頸がん検診 | |
|---|---|---|
| 目的 | HPV感染を予防 | 前がん病変・がんを早期発見 |
| 対象 | 主に接種前の方(定期接種は小6から高1生、それ以上の方も接種可能) | 20歳以上の全女性 |
| 推奨頻度 | 定期接種(2〜3回) | できれば1年に1回 |

よくあるご質問(FAQ)
HPVワクチンを打てば、本当に子宮頸がんにならないのですか?
オーストラリアとスコットランドのデータが、その可能性を強く示しています。
オーストラリアでは2021年に25歳未満の子宮頸がん診断件数がゼロとなり、スコットランドでは12〜13歳で接種を受けた約45万人の女性コホートで浸潤がんの発症がゼロでした。
ただしワクチンで防げるHPV型は約90%であり、接種後も定期的な子宮頸がん検診は引き続き必要です。
9価ワクチンはどの年齢まで接種できますか?
日本では定期接種の対象は小学校6年生〜高校1年生相当の女子ですが、任意接種(費用は自費)としてそれ以上の方も接種は可能です。
男性がHPVワクチンを打つ意味はありますか?
あります。男性への接種は咽頭がん・肛門がん・尖圭コンジローマなどの予防に加え、女性へのHPV感染を減らす「集団免疫」効果も期待できます。
オーストラリアは2013年から男女ともに公費接種を行い、それが今回の成果につながっています。
日本では2025年より男性への9価ワクチン(シルガード9)が承認されましたが、公費助成は現時点では限定的です。
男性のHPVワクチン接種についてはこちらもご覧下さい。
子宮頸がんはいつかなくなりますか?
2009年にHPVワクチンが日本でも接種できるようになった時に、我々産婦人科医は、子宮頸がんという悲劇的な病気が本当になくなると思って、歓喜しました。
豪州では早ければ2028年に、WHO基準(人口10万人あたり4件未満)を世界で初めてクリアする国になると見込まれています。スコットランドは2040年を目標としています。
ワクチンと検診を組み合わせれば「撲滅できる唯一のがん」として、子宮頸がんは医学史上まれな達成が視野に入っています。日本でもその未来は十分に実現可能です——そのために今できることが、ワクチン接種と定期検診です。
まとめ
オーストラリアが示した「25歳未満の子宮頸がんゼロ」は、予防医学の力を世界に証明した歴史的な出来事です。
これはたった1年の取り組みで生まれた結果ではありません。2007年から始まった一貫したワクチン接種プログラムと、高い検診参加率、そして公的な制度設計が積み重なった18年間の成果です。
日本でも、この「未来」は十分に実現可能です。そのために今、私たちにできることは——接種できる年齢のお子さんにワクチンを、そして自分自身の検診を欠かさないこと、この2点に尽きます。
ご不明な点はお気軽に産婦人科クリニックさくらへご相談ください。
【参考資料】 Smith M, Brotherton J, et al. 2025 Cervical Cancer Elimination Progress Report: Australia's progress towards the elimination of cervical cancer as a public health problem. NHMRC Centre of Research Excellence in Cervical Cancer Control (C4), 2025. https://report.cervicalcancercontrol.org.au/
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