赤ちゃんを希望している患者さんには、葉酸とビタミンB12、ビタミンDは少なくともサプリメントで摂取して欲しいです。
葉酸を摂取していなかった不妊患者さんから伺ったのですが、Xや知恵袋などで「葉酸を摂取すると、赤ちゃんの異常になる」と書いてあったと。。
本当でしょうか。
この記事の目次
葉酸の重要性とエビデンス
葉酸はビタミンB9で、DNA合成や細胞分裂に関与する栄養素です。
特に妊娠初期(妊娠4〜12週頃)には、赤ちゃんの神経管(脳や脊髄になる部分)の正常な発達に不可欠です。
厚生労働省やWHO、CDC(米国疾病予防管理センター)、日本産婦人科医会、日本小児神経外科学会などの公的機関は、妊娠の1ヶ月以上前から1日400μgの葉酸サプリメント摂取を推奨しています。
適切な葉酸摂取により、赤ちゃんの神経管閉鎖障害(無脳症や二分脊椎など)のリスクを最大70%低減できます(CDC MMWR, 1992)。
- 葉酸摂取量が多い方が、妊娠率が高くなる報告があり、卵子の質を向上させる効果も考えられています(Gaskins AJ et al. 2014)
葉酸不足によるリスク
葉酸が不足すると、胎児に以下のような影響が出る可能性があります。
神経管閉鎖障害(無脳症、二分脊椎など)
低体重児・胎児発育不全
先天性心疾患
口唇口蓋裂 など
「葉酸を飲んではいけない」??
「葉酸を飲むと赤ちゃんに異常が出る」「飲んではいけない」という情報には科学的根拠がなく誤りです。
このような誤情報は、主にSNS(X、Yahoo!知恵袋など)での誤解や体験談から発信・拡散されているようです。
これらの情報では、葉酸をサプリメントで1日1,000μg以上摂取した場合、以下のリスクがあるため、このリスクの部分のみが取り上げられているのかも知れません。
- 「サプリメントは危険」「食品から栄養素を摂取すべき」と言った表現も見られるようです。葉酸は食品から摂取しにくく、そのため妊娠を考えたらサプリメントから効率の良い摂取が推奨されています。
- また一部ではダウン症の発症や予防が書かれているのもあるようですが、葉酸とダウン症の発生には全く関係がありません。
過剰摂取の注意点
葉酸の上限量は1日1,000μg(1mg)とされており、これを超えると、
赤ちゃんの脳の発達が遅れる
小児の喘息やアレルギー疾患リスクの上昇の可能性
- 自閉症
のリスクが高まるとされています。
その他の注意点は?
葉酸サプリは一部の薬剤と相互作用を起こす可能性があります:
- 抗てんかん薬(フェニトインなど):薬の効果が低下する可能性
- 抗がん剤、リウマチの薬(メトトレキサートなど):葉酸吸収が阻害される可能性
葉酸に関するよくあるご質問
なぜ妊娠前から摂取する必要があるのですか?
葉酸は胎児の神経管閉鎖障害(無脳症や二分脊椎など)のリスクを低減するために重要です。この障害は妊娠初期(妊娠6週目頃)に発生するため、妊娠が判明する前から葉酸を十分に摂取しておくことが推奨されています。また妊娠率を高める効果もあるため、妊娠を計画している女性は、通常の食事に加えて1日400μg、できれば800μgの葉酸をサプリメントで補うことが理想的です。
食事では葉酸は足りませんか? 葉酸を多く含む食品は何ですか?
葉酸は熱や水に弱いため、食品から十分量摂取するのが困難でそのためサプリメントによる摂取が推奨されています。
なお、葉酸は以下の食品に多く含まれています:
- 野菜類: ほうれん草、ブロッコリー、アスパラガス。
- 豆類: 納豆、えだまめ、ひよこ豆。
- 果物類: アボカド、いちご。
- 肉類: 鶏レバー、牛レバー。
- 海藻類: 焼きのり、わかめ。
妊娠中の葉酸の推奨摂取量はどのくらいですか?
妊娠中の葉酸の推奨摂取量は以下の通りです:
- 妊娠前から妊娠初期(おおむね妊娠3か月): 食事から240μg+サプリメントから400μg=合計640μg/日(WHO, 2023、CDC, 2024)。
- 妊娠中期以降: 食事から240μg+サプリメントから240μg=合計480μg/日。
- 授乳中: 食事から240μg+サプリメントから100μg=合計340μg/日。
サプリメントを選ぶポイントを教えて下さい。
葉酸に限らず、日本でも多くのサプリメントが入手しやすく、選ぶのにとても困ってしまいますね。ネットで検索して上位にヒットしたり、有名人が宣伝している、とか。。
一般的にドラッグストアやネットで購入できるサプリメントと、「ドクターズサプリ」と呼ばれる医療機関専売(一部ネットでも購入できます)のサプリメントでは、原料、製造工場のクオリティが異なります。
そのため、主治医の先生に相談するのも良いと思います。
葉酸を吸収するためにビタミンB12が必要です。十分量入っているものを選択しましょう。
不妊治療中や高齢妊娠でも葉酸は必要ですか?
はい、妊娠準備中であれば年齢や妊娠方法にかかわらず、葉酸は非常に重要です。
特に35歳以上の女性では卵子の老化リスクや流産率も上昇するため、細胞のDNA修復やホモシステインの代謝をサポートする葉酸の摂取はおすすめです。
葉酸は体外受精の着床率にも良い影響があるとする報告もあります。
文責 桜井 明弘(理事長・院長、日本産科婦人科学会専門医)