子宮内膜症は、主に月経痛と不妊症、慢性骨盤痛の原因となり、女性のQOLを低下させる病気です。

こちらの記事もご参考になさって下さい。

子宮内膜症はどうして不妊の原因になるの?

特に妊娠を希望している女性にとって、卵巣や卵管周囲の癒着から、排卵された卵子のPick up障害を来し、また卵巣機能を低下させて卵子の質を悪くすることが、妊娠率の低下の原因となります。

そのため、子宮内膜症と診断された方には、未婚であったり、まだ赤ちゃんを望んでいないうちから、たとえ月経痛がなくても、将来の妊娠のため内膜症の治療をすることを勧めています。

しかし、多くの患者さんが、妊娠を希望してから、検査や生殖医療(不妊治療)のために受診した際に初めて子宮内膜症が発見されることが多いのが現実です。
妊娠前から婦人科のかかりつけ医できちんと検診を受け、適切な治療を行っておいて欲しい理由の一つです。


それでは、現在妊娠を考えている方が子宮内膜症にかかっている場合、どうしたらいいのでしょうか。

子宮内膜症、と言っても主に次の3つの病態があります。

・卵巣チョコレート嚢胞

・子宮腺筋症

・上記いずれでもなく、腹腔内に病変がある

卵巣チョコレート嚢胞と子宮腺筋症の診断は、主に超音波検査で発見し、さらに精密検査としてMRI検査を行うこともあります。

卵巣チョコレート嚢胞は、卵巣に子宮内膜症が発生し血液を含んだ腫瘤が出来るものです。
多くの場合、卵巣と卵管、腹膜や腸、子宮と癒着し、排卵した卵子が卵管に取り込まれにくくなり、またチョコレート嚢胞のある卵巣では慢性炎症により卵巣機能と卵質の低下を招きます。
小さなチョコレート嚢胞ではそのまま妊娠してもほとんど問題ありませんが、おおむね5〜6cmを超えると、妊娠中のリスクとなるため、妊娠前に手術をする必要があります。
大きなチョコレート嚢胞を持ったまま妊娠すると、妊娠して大きくなった子宮に押しつぶされて、チョコレート嚢胞が破裂する危険性があり、妊娠中でも緊急手術を行う必要があることもあります。

子宮腺筋症は、現在では子宮内膜症の一つとはされていませんが、病態は子宮内膜症と同じです。
子宮筋層に内膜症が入り込んだ状態になり、子宮筋層が厚くなったり、子宮全体が大きくなったりします。月経の血液量が増え(過多月経)、ほとんどの場合月経痛を来しますが、受精卵が子宮に着床するのを妨げ、不妊の原因となります。
手術は不可能ではありませんが、技術的に難しい点や、出産時に子宮破裂のリスクが増える点、再発率が高い点からまだ標準的とは言えません。

最後にチョコレート嚢胞や腺筋症が無く、腹腔内に病変がある場合ですが、通常の検査では分からないことが多く、手術でお腹の中を直接観察して診断されることがほとんどで、外来では超音波検査や卵管検査で癒着が疑われることからの診断で、確定診断は困難であることが多いです。

さて、子宮内膜症が診断された場合の生殖医療はどのように行っていくでしょうか。

施設により治療方針が異なりますが、産婦人科クリニックさくらでは、おおむね以下のように対応しています。

①チョコレート嚢胞が5cm未満→タイミング法・人工授精、体外受精などの高度生殖医療を行い、早期に妊娠を目指す。

②チョコレート嚢胞が6cm以上→卵巣予備能をAMHで測り、十分な卵巣予備能がある場合、手術を先行し、卵巣予備能が低下している場合、高度生殖医療を行い受精卵を凍結保存、十分な受精卵が得られた後に手術を受け、手術後に胚移植する。

③子宮腺筋症が大きい場合→タイミング法・人工授精を行っても妊娠に至らない場合、高度生殖医療を行い十分な受精卵が凍結保存できたら偽閉経療法を行い、子宮を縮小した上でホルモン補充周期に胚移植する。

④腹腔内病変のみが疑われる場合→タイミング法・人工授精を行い妊娠に至らない場合、手術で癒着剥離を行うか、高度生殖医療を行う。


①子宮内膜症は不妊原因となりますが、絶対不妊ではなく妊娠率の低下を来す病気です。一方でチョコレート嚢胞は妊娠で縮小し、さらに授乳中、月経が停止している間に治ってくるため、なるべく早く妊娠することを目指します。

②についてですが、チョコレート嚢胞の手術後に卵巣機能が低下することが知られています。
産婦人科クリニックさくらでは、特に30〜40歳で、術後にAMHが低下することを発表しています(産婦人科の実際、2016)。
手術でどれくらい低下するかは明らかではありませんが、手術前後で低下することは明確です。
内膜症で卵巣や卵管などが癒着し、妊娠できない可能性は手術によって改善することが出来ますが、一方でチョコレート嚢胞を摘出することで卵巣機能低下を招くこともあるのです。

そのため、AMHの値を参考にして、手術後、極端に卵巣機能が低下した場合でも十分な予備能がある、と判断できれば手術を、すでに卵巣機能が低下してきてしまっている場合は、手術で卵巣機能が低下する前に受精卵を得ておこう、という治療戦略で、高度生殖医療を行います。

大きなチョコレート嚢胞がある場合、採卵は難しかったり、採卵に伴う感染のリスクもありますが、リスク&ベネフィットをよく相談した上で治療方針を考えています。

手術を行う場合も、なるべく卵巣機能の低下を来さない方法で行って頂くよう、紹介先の施設にお願いしています。

③はさらに長期にわたる治療戦略を立てなければなりません。子宮腺筋症は着床障害が主な不妊原因となるため、最も効果的な偽閉経療法を用い、子宮を縮小させます。一般生殖医療でも、偽閉経療法を6ヶ月行った後にタイミング法・人工授精を行うこともありますが、妊娠に至らない場合、数ヶ月で腺筋症は元に戻ってきてしまいます。

そこで、先に高度生殖医療で採卵、受精卵凍結を行い、偽閉経療法を6ヶ月間行い、その後月経を待つ間に腺筋症が元に戻ってしまいますから、排卵が戻る前にホルモン補充周期で受精卵を胚移植します。

子宮内膜症をもつ不妊治療では、ガイドラインではチョコレート嚢胞は最初に手術、とありますが、現在のコンセンサスでは当院と同じ様な方針を採る施設が増えてきています。
ここにあげた治療方法、治療方針はあくまでも当院の指針であるため、治療されている施設で主治医の先生とよく相談なさって下さい。